なつかしく謎めいて / アーシュラ・K・ル=グィン

なつかしく謎めいて (Modern & classic)

なつかしく謎めいて (Modern & classic)

『闇の左手』、『ゲド戦記』で有名なル=グィンですが、どうもオレとは相性が悪いらしく、何度も手には取ってみるのですがどうも世界に入っていけない。まともに読んだのはサンリオから出ていた『ロカノンの世界』ぐらいなのですが、これはル=グィンぽくない作風(処女作らしい)だから割と読めたのかもしれません。今回ル=グィン作品に再挑戦してみようと思ったのは例の『ゲド戦記』映画化のせいなんですが、ううん、やっぱりとっつきが悪かったなあ。


この『なつかしく謎めいて』は平行宇宙への観光旅行が可能になった世界が舞台です。ある一人の女性がそれぞれの世界を訪れた時の紀行文や、それらの世界の噂話、伝承、研究結果をまとめたような短編集になっています。ガリバー旅行記の現代版といったところでしょうか。訪れる世界は我々の世界とはほんのちょっと異なる人たちが住むだけで、またその世界の環境は殆ど地球と一緒で、極端だったり特異なものがあったりというわけでもありません。SF的な異世界を描いたのではなく、架空の文化人類学、もしくは逸話ということになるのでしょう。


ただそれぞれの短編は作者が想像した「もしもこんな世界があったら」といったインスピレーションに気軽に肉付けしたもので、その世界の有様のみが提示されるだけの作品が多いです。ですからこれといった物語や人間描写があるわけでもなく、あくまで作者の自由な想像力で作られた世界を俯瞰する、といった作品になっています。これは好みの問題なのでしょうが、オレとしてはこの物語性の乏しさがちょっと退屈だった。描かれる世界は旅行者の目で観察されたもので、その辺の妙に客観的な描写もお話にノレない理由の一つでした。逆に、肩の凝らない御伽噺のように読めば楽しめるのかもしれません。


ル=グィンの場合まずその世界の風土とそこで暮らす人の形をデザインし、そこから想像し得る物語を紡いでいくような帰納法的な創作手法をしているのではないかと思うんです。F・ハーバードなどにも似たような感触を覚えます。


例えば何らかのアイディアがあって、それを科学や物理学に齟齬がないように情報を駆使してフィクションを作り上げる、理論上は可能だが現実的ではない技術を無理やり可能なものとして描く、またはそのアイディアのために科学も物理学ももでっちあげる、その想像力というか嘘のつき方を楽しむようなSFの読み方をしているとちょっと物足りなく感じるんです。そういった面で見るとル=グィンは造り込まれた箱庭的な作風を得意とするが、多少の齟齬など誤魔化しちゃうようなダイナミックな作品を描くような人ではないのではないかと想像します。登場人物もどちらかというと古典的伝統的な人間性から逸脱することはあまりない。その辺に堅苦しさを覚えるのでしょうか。