運命の不思議な絆

オレの事務所の”クイクイ!A君”がフィリピンパブに足げく通い、麗しきフィリピーナに入れあげているのはこれまでの日記に書いていた通りである。
そのA君、お気に入りのフィリピーナの気を引こうとどうやらフィリピン語であるタガログ語をお勉強しているという噂が入ってきたのである。
げにおそろしきは情欲の成せる技である。
しかしA君といえば実は大学でスペイン語を学んでいた青年であり、入社当時はスペインの風土や文化について目をキラキラさせて語っていた時代もあったのである。
それが今では連日の酒宴でどろりと濁った目つきでブツブツとタガログ語を呟いては一人でエシェシェとか思い出し笑いをしているのだから人生というのはどこでどう転ぶのか判らないものであるよのう、などとオレなどは遠い目をしながら夕暮れ時の空を見つめ、想いに耽ったりするのである。
だがしかしそこでオレはある事に気が付いたのである。
フィリピンといえばかつて植民地としてスペイン領だった時代があったのである。
つまりスペイン→フィリピンという流れは実はある意味当を得ているのである。
オレはこのA君の人生における偶然とは思えない不思議な符号に気付くに及んで、運命と言うものの謎に満ちた深淵を覗き込んだような思いに囚われ、それに深い衝撃を覚えたのである。
そう、全ての事は繋がっているのである。
当人は気付かなくとも、言葉では説明できない得体の知れない力がどこかで人を突き動かしているのだ。
運命、それは驚異と謎に満ちている。
そして、A君は今日もタガログ語を呟き続けるのである。