ロング・エンゲージメント

ロング・エンゲージメント [DVD]

ロング・エンゲージメント [DVD]

オドレィ・トトゥとジャン・ピエール・ジュネ監督の『アメリ』に続くタッグとして注目された作品だけれど、『アメリ』と比べられてきちんと評価されていないような気がしました。


それにしても『アメリ』は本当に幸福なヒットをした映画だよなあ。オレの周りの女子の殆どがDVDで所有している、というところなんか凄いよなあ。でもそんな『アメリ』のイメージから離れると『ロング・エンゲージメント』はジャン・ピエール・ジュネらしさが十分に出たいい映画に仕上がっていると思うけどな。そもそも『アメリ』がカートゥーンを思わせる小粋な魅力に満ちたお洒落な作品だとしたら『ロング・エンゲージメント』はジュネにしては実に正攻法で撮っている重厚な文芸大作じゃないですか。ジャンル的に違うもんな。オドレィ・トトゥ主演ということで『アメリ』的なものを期待させたのはちょっと損だったかも。いやでも好演してますよオドレィ・トトゥ。


物語のほうも出征して帰らぬ人となった恋人を生きていると信じて待ち続け…という妄執の物語みたいな紹介のされ方だったが、実際は恋人の死が信じられず、調べていくうちに様々な疑問点が浮かび、彼が死んだとされたその時にいったい何が起こったのか?というミステリと探索の旅が映画の物語的な主軸でしょうね。そして記録と証言により時間を遡る事によって、第一時世界大戦の凄惨な戦闘と襤褸切れの様に死んでゆく兵士たちを描いてゆき、当時の戦争の悲惨な有様を浮き彫りにしていく、というわけです。


ただ、そういった物語よりも、当時のフランスの片田舎、町、そして戦場を再現した映像のほうにオレは眼を奪われた。ただ単に”忠実な再現”をしたに止まらない、ジュネ的なフィルターをかけられた(しかも遣り過ぎではない)とても美しくノスタルジックな匂いのする映像に仕上がっているのですよ。このジュネ的な、というところが肝心で、同じような史劇を観てもこういふうに心くすぐられる事はないんですよ。小道具や見せ方が違うのでしょうか、やはりセンス、ということなんだろうなあ。


それにしてもあの頃のヨーロッパ戦線ってビジュアル的に独特の雰囲気がありますね。不恰好で重そうな軍服のデザインって、大友克洋あたりがメビウス経由でよく流用していたような気がするし、兵器にしても宮崎駿は「ハイテク兵器より第一時世界大戦当時の兵器のほうが朴訥で好きだ」みたいな事を言っていたような。そんな軍事マニアな方にも見所があるんじゃないでしょうか。


心に残ったシーンはいろいろありましたが、戦闘場面での草木一本も生えない爆撃の穴だらけの荒野と化した戦場が、後に主人公が訪ねて行った時に一面の緑の草原に変わっていて、この対比が移ろう時の流れを感じさせて胸にきました。


ジュネはやっぱり好きな監督ですね。ちなみに『ロスト・チルドレン』『デリカテッセン』、『アメリ』もDVDで持っています。(『エイリアン4』はなぜかビデオで。)