バタフライ・エフェクト

子供の頃から記憶を断片的に失う性向のあった主人公は日記をつける事により記憶を留めようとする。そんな彼が大学生となったある日、失った記憶の件を問いただしたことによりかつての幼馴染が自殺したことを知る。そして苦悩する彼の周辺で異変が起こる。


SFでいうところの歴史改変テーマと怪奇小説の古典的名作『猿の手』を混ぜたような作品。(願いが叶うという”猿の手”に願いをかけると、叶う代わりに大きな代償も得てしまう…という恐怖短編。)


着想はいいんだがなあ。かつて淡い恋心を抱いていた女の子の失われた生命をもう一度取り返して…みたいな話は観客の感情を大きく揺さぶると思うのだけれども、そんな事件に行き着くまでの前振りが長くて、幼い頃の陰鬱な日々が最初延々と語られるのよ。失われた記憶と自分の出生とが思わせぶりに語られるけれども、なにしろ話がなかなか展開してくれず本題とも言えるテーマに辿り着かないから、見ているほうはただどんどん暗い気分になってゆくだけなんである。脚本の問題なのかも。(6年かけたらしいんだが…。)ってかさあ、子供の頃のトラウマにいつまでもかまけている主人公自体がなんか性格暗くて嫌なのよ。妙に穿り返そうとするからかえって薮蛇になっちゃって、事件を巻き起こしているような気がするんだよなあ。子供時代の悪い思い出の尻拭いだけで今の自分の現実を改変してしまうというのは、どうにも後ろ向きなんじゃないか。そういえば最近ドラマで話題になった『白夜行』とかも子供時代のうんちゃらかんちゃらを犯罪の理由にした後ろ向きな話で、原作読んだけれど全然好きになれなかったなあ。性格の暗さを宿命みたいに語っちゃあかんよ。辛い事があったってにっこり笑って明るく生きてる人だっているんだからさ。そしてそんな人たちはただ明るいんじゃなくて自分に負けたくないから明るくしようとしてるんだと思うよ。


で、主人公の得体の知れない能力のせいで、良かれと思って変革した過去がどんどん悲惨で歪な現実を生み出してゆくのだが、見ているうちにオレのほうはサディスティックな気持ちになってきて「これずっと続けていって最後究極に悲惨な状況になって終焉すれば面白いだろうなあ」とさえ思えてきたよ。タイトル忘れたけれど、とあるSF短編で歴史変革を繰り返した挙句、最後には地球が生物が住まず海草しか生えてない惑星になってしまうというのがあって、あのぐらいやっちゃうと面白かったんだけどな。客入らなさそうだけど。結局映画のほうは監督言うところの”犠牲の物語”とかいうものに収束しちゃうんだけれど、だからさ、その消極性とか子供じみた潔癖性とか綺麗事で済ませたがる態度が「やっぱ主人公暗い奴じゃん」で終わってしまうんだよな。「要するに全部無しにしちゃえ!」って、それは、”物語というもの”それ自体を否定しちゃうことにならないか?


なおDVDでは異なったエンディングが3つ収められているけれど、無意味にハッピーエンドなエンディングが一番好きだった。最近とみに能天気になってきているオレなのである。