シャングリ・ラ / 池上永一

シャングリ・ラ

シャングリ・ラ

第2次関東大震災後、東京の復興のために建築されたのは関東平野を覆う13層からなる超巨大建造物”アトラス”だった。そしてかつての東京は地球温暖化対策のためにCO2を吸収するジャングルへと変容させられ、難民としてここで住む者たちはゲリラとなり”アトラス”へと戦いを挑む。
地球温暖化を防ぐために打ち立てられた世界の新経済体系”炭素経済”の概念が面白い。物語はこの”炭素経済”を巡る経済戦争を縦糸に、”アトラス”に秘められた伝奇的謎を横糸にして語られるのだが、そういった物語の骨子よりも、あまりに破天荒な登場人物のキャラクターが面白いのだ。ブーメランを操り戦車さえも粉砕する主人公の女子高生、格闘技のプロである美貌のニューハーフ、十二単を身に纏い嘘をつく者を死に至らしめる超能力を持った少女、メスを飛び道具に使う殺人狂の女医師、…等など、どこかコミックタッチな極端な設定のキャラ達が、これまた科学も物理法則も常識的な肉体構造も完全に無視して地を駆け宙を舞い熾烈な戦いを繰り広げるのである。
いやあ、最初は面食らって「大丈夫かこれ?」と匙を投げそうになったが、キャラの魅力と、なによりしっかりと語られる”炭素経済”の説得力から次第に引き込まれていった。というか、思ったのだがこういったコミックタッチのキャラクター設定というのはライトノベルのものなのだろうか、オレはラノベは読んだことがないから何とも言えないのだが。小説自体はアニメ雑誌ニュータイプで連載していたものだということだから、そういった読者層にもアピールする作りになっているのかもしれない。
物語の語り口は雑誌連載ということからだろうか、章毎にクライマックスが設けられ、ラストに行くほどめまぐるしい展開になり、盛り込み過ぎかなと思わせるほどとっ散らかってゆくのだが、逆にこの賑やかさが最近の読者には受け入れられやすい条件なのかな。また伝奇的な要素は割とありがちではあるが、判り易さを意識したもの、と好意的に受け止めておこう。
難点を挙げるなら数百万人は居住しているはずの”アトラス”に生活する人々の気配を感じないというところかな。単なる要塞みたいな雰囲気なんだよ。それと萌え要素を意識してか女子のキャラクターは活きているのだけれど、男性のキャラはいまいち生彩がない。全体的に整合感なんかよりは荒唐無稽なキャラの生き生きとした様子を乗りと勢いの良さで読んじゃう小説かな。