DIRECTORS LABEL ジョナサン・グレイザー Best Selection

DIRECTORS LABEL 4+1枚組スペシャル・パック (初回限定生産) [DVD]

DIRECTORS LABEL 4+1枚組スペシャル・パック (初回限定生産) [DVD]

■DIRECTORS LABEL ジョナサン・グレイザー Best Selection
DIRECTORS LABEL4、最後に見たのはジョナサン・グレイザー。しかし作品数は少ないものの、この人が一番PV監督らしいPV監督だと思った。というのは、その映像内容が監督したアーチストの音世界に最もリンクした作品へと仕上げているからだ。歌詞や音を説明するものではなく、そのアーチスト・コンセプトにまで肉薄し、さらにはPV監督したアーチスト・イメージまでも変えてしまう、それは監督ジョナサン・グレイザーの音楽への高い理解度と感情移入度を伺わせる。
作品ではやはり巻頭のUNKLE『Rabbit in Your Headlight』のPVがまず目を見張らせるものがある。車の往来するトンネルを挙動の怪しげな一人の男がブツブツと何かを呟きながら歩いている。避ける車。しかし遂には彼は車にはねられる。何度も何度も。そして…。短編映画の一節を見せられているような緊張感溢れるこのPVは、ボーカルを務めたレディオヘッドトム・ヨークの持つ孤独や狂気、そして生の混乱を映像の中で垣間見せる。これはレディオヘッド『Street Spirit』でも同様だ。シンプル極まりないコンセプトなのにも関わらず、恐ろしく完成度の高いPVだと思う。
ところで、ここで狂気に囚われた薄汚れた浮浪者を演じたのはドニ・ラヴァン。ええとドニ・ラヴァン…ええええ!『ボンヌフの恋人』『汚れた血』『ボーイ・ミーツ・ガール』とレオス・カラックスの初期の恋愛3部作に主演していた少年がこんなジジイになっちゃいましたかあ!?根本敬風に言えば「いい顔のオヤジ」の分類に入りますと言えば言えますが…。諸行無常の響きありですなあ…。
続くジャミロクワイ『Vietual Insanity』は、床がするすると動く小部屋で歌い踊る彼をPVにしたものだが、これはもうジャミロクワイの代名詞になってしまいそうな軽やかで浮遊感覚溢れるPVに仕上がっている。
リチャード・アシュクロフト『A Song for the Lovers』はホテルの部屋でジーンズ&上半身裸で寛ぐ彼を写したもの。ただそれだけなのにリチャード・アシュクロフトがおそろしく魅力的に、かつ虚飾なく描かれている。あんまりハンサムでカッコいいので観た女子はきっと萌えまくりますよ。リチャード・アシュクロフトはヴァーヴの人でしたね。ヴァーブの『アーバン・ヒムス』好きだったなあ。
ブラー『The Universal』は英国人らしい彼等のシニカルな雰囲気のよく出たちょっと奇妙なPVだ。キューブリック『時計仕掛けのオレンジ』にインスパイアされたと思しき衣装、美術が楽しい。マッシブ・アタック『Karmacoma』でも『シャイニング』の一場面の再現があり、キューブリックの映像作家に与える影響の程を伺わせた。
PVの他にコマーシャル・フィルム集が収められている。ギネス、リーヴァイス、フォルクスワーゲンなどだが、日本の物とは違うCMの写し方、世界観のあり方が興味深い。サミュエル・L・ジャクソンがバークレイズのCMで出演しているのがご愛嬌。
『長編作品』と銘打たれているビデオ・クリップではジョナサン・グレイザーが監督した長編映画作品『Sexy Beast』『Birth』からの抜粋が収められている。『Sexy Beast』はニコール・キッドマンが出演しているらしいが、抜粋だけを見ても『KILL BILL』を思わせる激情的なバイオレンス作に仕上がっているようだ。


■DIRECTORS LABEL 4+1Disc Special Pack Bonus Disc
このBOX SETのみの特典DVDにはスパイク・ジョーンズミシェル・ゴンドリーの新作PV、そして『DIRECTORS LABEL 第一回シリーズ発売記念』としてL.A.のバージン・レコード店舗におけるファンとクリス+スパイク+ミッシェルのQ&Aセッションの模様が収められている。このQ&Aセッション、ファンとのやり取りが実に寛いだフランクなもので、英語の壁もあるけど日本じゃマスコミや業界人でいっぱいになってこんなリラックスした雰囲気で彼らと接する事なんて出来ないだろうなあ…と思えて実に悔しかった。
スパイク・ジョーンズミシェル・ゴンドリーの新作PVはもうベテランの貫禄としか言いようのないどれも素晴らしい出来栄えで、というか全体的に力の抜けた演出が観ていて楽しめるのだ。
スパイク・ジョーンズが監督したヤー・ヤー・ヤーズ『Y control』の恐るべき子供達、ウィーザー『Island in the Sun』の動物達と戯れる無邪気さ、映像作品『Yeah Right』の姿の見えないスケートボードに乗る若者達の浮遊感、どれもいい。
ミシェル・ゴンドリー監督ではザ・ウィロウズ『I Wonder』のふざけた浮浪者の一日が愉快なアイディアいっぱいで描かれ、実にゴンドリー作品らしい出来。そしてこのボーナスDVDで一番の注目作だと思われるショート・フィルム『Ossamuch!-Kishu&Co.』が馬鹿馬鹿しくもとぼけた味わいとローテクな手作り感覚のカジュアルさが心憎いほどに楽しく、これは何度も観たくなる傑作だ。


■過去の『DIRECTORS LABEL』のレビュー
○『DIRECTORS LABEL 4+1枚組スペシャル・パック 』
・マーク・ロマネックhttp://d.hatena.ne.jp/globalhead/20051114
アントン・コービンhttp://d.hatena.ne.jp/globalhead/20051115
・ステファン・セドゥナウィhttp://d.hatena.ne.jp/globalhead/20051116
○『DIRECTORS LABEL スペシャル・トリプル・パック (初回限定生産)』
ミシェル・ゴンドリースパイク・ジョーンズクリス・カニンガムhttp://d.hatena.ne.jp/globalhead/20040502