DIRECTORS LABEL ステファン・セドゥナウィ BEST SELECTION

DIRECTORS LABEL 4+1枚組スペシャル・パック (初回限定生産) [DVD]

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ギラギラと輝く肉体。歪み伸び縮みする鏡の中で光そのものと化した立像。ステファン・セドゥナウィの描く映像世界では者皆眩いばかりに光り輝く光線の中で、それ自体が光り輝く物体として描かれる。《グリッター》という言葉があるが、まさにそのものずばりだろう。

なにしろ登場するミュージシャンや俳優達がことごとくメタリックに輝く洋服を着、レッド・ホット・チリ・ペッパー(『Give It Away』)、ミルウェイズ(『Disco Science』)では光りモノの洋服だけでは足りなくて体に金粉銀粉塗ってる始末だし、マッシブ・アタック『Sly』ではソラリゼーションをかけられ反転した色調の中で輝く肉体が踊り、R.E.M.『Lotus』、ミルウェイズの『I Can't Wait』ではとうとう体がネオンのように輝き出す有様。ビョークの『Possibly Maybe』ではまたもや白く輝く光輪の中のビョーク、蛍光色のコスチュームを身に纏いやはり白く輝く床の上でごろごろするビョークが見られる。トリッキー『Pumpkin』ではブルーのフィルターをかけられたざらついた映像の中を赤いレーザーサイトが画面の中で歌う者達に照準を合わせる。U2『Mysterious Ways』はギンギラギンなナイトクラブで明滅するフラッシュライトとカクテル光線とミラーボールの反射の中での演奏。もうその表現される世界での光の洪水と光の乱舞する様は枚挙にいとまがない。

またごく普通に見えるアラニス・モリセット(『Ironic』)のPVはただ運転しながら歌う車中の姿を写しただけのものだが、アラニス・モリセットの一人三役のアイディアよりも木立の間から漏れる陽光が走行する車の中へちらちらと明滅して射し込むその眩しさが気付かぬうちに瞑想的であり幻惑的なのだ。ここにさえステファン・セドゥナウィの光線のマジックが存在している。人は明滅する光に幻惑され(デイズド)我を失う(&コンフューズド)。パルス化した視覚情報に脳がハングアップを起こすのだ。それは別の言葉で、”陶酔”、とも言う。

そしてこの伸び縮みし反射しハレーションをフレアを起こし露出過多ぎみに明滅する光そのものがステファン・セドゥナウィの表現する世界の主人公なのだろう。これらの光はアーチストの纏うオーラやパワーや精神性など、メタフィジカルなものを視覚化したものと言えるのかもしれない。それと同時にラテン系の血を滾らせた監督ステファン・セドゥナウィ自身の表現への熱いパッションの顕現でもあるのだろう。

PV集の中でも異色だが実に個性的で愛すべき作品であるビョークの『Big Time Salvation』では、トラックの荷台にビョークを乗せ、歌い踊る彼女をカメラの中心に据えたままニューヨークの街を延々と走り続ける!有名なこのPVは警官に警告を受け追われながらも9時間にわたって撮影されたという。この恐るべき粘り強さと集中力。自らが表現するものへの絶対的な信頼と自信があるからこそ成せる業だ。それにしても、ビュークといいトリッキーといいレッチリといい、思いっきり我の強そうな連中のPVばかり撮る監督だよなあ。これらアーチストの強烈な自我さえなだめすかすほどに監督の力量が買われている、と言うことなんだろうなあ。

…とここまで冷静に書きましたが。

普通にPV集だと思って見ていたが、特典映像へとメニューを変えると…こ、このメロディーは!!!なななんとルー・リードの名曲『ワイルドサイドを歩け』を歌の歌詞そのままに映像化したショート・フィルムが収められています!
”伝説のバンド”ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの中心人物だったルー・リードの『ワイルドサイドを歩け(Walk on the Wild Side)』は女装趣味、ホモ、オカマ、娼婦、男娼、ヤク中など倒錯したニューヨークのアンダーグラウンドを歌ったものですが、そのインモラルな彼等の生を逆にアナーキーで自由奔放な生き方と肯定的に捉え、「ワイルドサイドを歩け」とエールを送った感動的な作品なのです。そしてこれを映像化したステファン・セドゥナウィのショート・フィルムは淫靡なセクシャリティに満ちた、暗闇に咲く隠花植物のような妖しい美しさに満ちています。勿論ルー・リード本人も出演!奇妙な物悲しさとすれっからしの希望を描いた、とても心に残る作品に仕上がっています。そして、フィルムのラスト、孤独な表情を浮かべた娼婦がその手を伸ばす先にあるのも、やはりどこかから照らす眩い《光》なのです。
トランスフォーマー+2

トランスフォーマー+2


■『DIRECTORS LABEL』レビュー
『DIRECTORS LABEL 4+1枚組スペシャル・パック 』
・マーク・ロマネック http://d.hatena.ne.jp/globalhead/20051114
アントン・コービンhttp://d.hatena.ne.jp/globalhead/20051115
・ステファン・セドゥナウィ http://d.hatena.ne.jp/globalhead/20051116
ジョナサン・グレイザーhttp://d.hatena.ne.jp/globalhead/20051129
○『DIRECTORS LABEL スペシャル・トリプル・パック (初回限定生産)』
ミシェル・ゴンドリースパイク・ジョーンズクリス・カニンガム http://d.hatena.ne.jp/globalhead/20040502