公式記録映画 日本万国博

公式長編記録映画 日本万国博 [DVD]

公式長編記録映画 日本万国博 [DVD]

実際に行って観る事はなかったのだけれど、万国博覧会には奇妙に甘酸っぱいノスタルジーを感じる。その頃オレは小学生だったが、少年誌などで特集される万博のパビリオンの様子やその展示物の写真を眺めては、深い深いため息を付いていた覚えがある。なにしろ北海道のド田舎の貧乏人の生まれだったから、家族で大阪まで旅行なんて有り得なかったのである。それでもよく「万博行きたい、万博観に行きたい」って親に嘆願していたな。その頃オレん家は木造家屋を半分仕切って、よその家のおばあちゃんと共同で住んでいたんだけど、ある日そのおばあちゃんが老人会かなにかのツアーで万博に行ってきてね。帰ったら記念写真を見せて貰ったけど、何度も何度も見せて見せてとせがんでは、出して貰うたびに一枚一枚舐める様に眺めていた。
子供の頃のオレを万博の何がそれほどまでに魅了したのだろう。いや、そんな事は修辞的表現なんぞ使わなくても明白だ。万博は、オレにとってその時その時代の、最もカッコイイおもちゃのおもちゃ箱だったのだ。そう、子供の頃のオレにとって、万博は「尖がってて」「COOL」でそして「SF」だったのだ。あの頃の少年誌には万博パビリオンのペーパークラフトが毎月付録で付いていたものがあって、それを作っては完成した模型にうっとりと魅入っていたものだ。
このDVDはその万国博覧会を3時間の長尺でもって記録したドキュメンタリー映画である。

EXPO'70=日本万国博覧会のすべてを記録した、ただひとつの公式長編記録映画。
参加77ヶ国、入場者6,400万人。
「人類の進歩と調和」をテーマに、1970年3月〜9月まで大阪・千里丘陵で開催された、史上最大の万博=日本万国博覧会東京オリンピックと並ぶ昭和史の一大イベントのすべてを、日本映画界最高のスタッフが、3時間におよぶ壮大なスケールで完全ドキュメンタリー映画化!
直接製作費3億4千万円、のべ参加スタッフ数1万8千名、使用フィルム尺10万メートル。黄金色に輝く円型の頭部が太陽の塔の胴体に装着される大迫力のトップシーンから、観る者は一気に、まるで万博会場に立ち会っているかのような臨場感と興奮にひきずりこまれる。アメリカ館、ソ連館、日本館をはじめとする、奇抜なデザインによる各国のパビリオンが、お祭り広場が、エキスポランドが、月の石が、タイムカプセルが、カラフルなコスチュームの美しいホステスたちが、世界中のアーティストによる歌と踊りの祭典が・・・・・・ワイドスクリーンいっぱいに、一大パノラマとして展開する!
今回の初DVD化(初ソフト化)にあたって、長らく眠っていたオリジナルネガよりニュープリントを制作、スコープサイズスクィーズ・テレシネにて完全収録。
KINOKUNIYA BOOKWEB :
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-JCD=4988102103439

なにより開会式の様子が素晴らしい!!この開会式が「万博とはなんだったのか」ということの全てを物語っている。その後は各パビリオンの紹介になる訳だが、それはいうなれば瑣末な情報であり説明であり記録であり、インデックス付きのカタログみたいなものだ。しかし開会式はライブであると同時にセレモニーであり象徴であり、日本のある時代を切り取った鮮烈な情景であると思う。このシークエンスだけでも観る価値は十二分にある、いや、誰にも観て欲しいとさえ思う。
と、ここまで真面目に書いて来ましたが、実は、開会式冒頭のね、あでやかな衣装を身に纏った世界各国のコンパニオンのお姉さん達が、次々と壇上に現われてはお国の言葉で「こんにちは」を言って行くシーン、萌えましたね!もうみんな美女に見えてしまって、「ああオレこんなにいっぱい相手に出来ないよお」とか訳の判らないことをほざいてましたね!
そして最後にそれら国旗に先導された彼女達が中央広場に整列し、壇上の時の天皇、エンペラー・ヒロヒトに拝礼するシーンはナショナリストではないオレも奇妙に感慨深かったです。そうです、この映画では昭和天皇のお姿を拝見することができるのです。もちろん当時皇太子であった今上天皇明仁様や皇族の方々もおまみえしております。オレは皇族というものに特に意見も何も無い人間ですが、《象徴天皇》とはいえ、この当時まで天皇という象徴がどれほど大きいものだったのか、映画でのこの場面の醸し出す独特な雰囲気から垣間見得たような気がします。ああ、日本って、皇族のある国だったんだなあ、と、当たり前のことを改めて発見してしまいました。
その後の万博会場での賑やかな催し物も、和やかで楽しさに溢れていて素晴らしかった。「人類の進歩と調和」というスローガンは、現実的に翻って見るならば他愛のない奇麗事なのかもしれないけれど、しかしこの日、この場所の万博会場では、例え薄っぺらい幻想なんだとしても「それは確かにあった」のです。そして現実を生きていくという事は、この他愛の無い幻想を遮二無二信じてゆく事なのだと思う事がたまにあります。なぜならば夢の無い現実など生きていてもつまらないではないですか。
敗戦後の日本が東京オリンピックで完全な復興を宣言し、そしてこの万国博覧会で高度経済成長と日本の豊かな未来を宣言したのは周知の事です。その高度経済成長が裏側では何を生み、豊かなはずの未来がどのような結末を迎えたか、2005年に生きる我々はよく知っていることでしょう。そして幸福な情景はいつか色褪せ、万博の映像もノスタルジーの彼方になってしまいました。しかしそれ自体がタイムカプセルになったこの映画を観る時、夢を信じる力というのは、いつの時代でも決して変わらないのではないかと思えてなりません。
参考:EXPO70伝説