コーヒー&シガレッツ (監督/ジム・ジャームッシュ 2003年 アメリカ作品)

ジム・ジャームッシュ、コーヒーと煙草を巡るカフェでのちょっとした会話を綴った小品集。
これを観た誰もが映画館を出たら早速コーヒーショップに入って煙草を燻らせつつコーヒーを飲みたくなるだろう、そんな映画。
この映画に限って映画館で上映中喫煙OK!とかやったら面白かったのにね。もちろんロビーにはでっかいコーヒーマシンが置いてあって、入館者は飲み放題!とかさ。上映中も隣に座っていた人が飲んでいる缶コーヒーの香りが漂ってくるたび、コーヒー飲みたくて堪らなかったもの。
かく言うオレはカフェには寄らずアパートに帰って、煙草1本キメたあと、たっぷりコーヒーを淹れてからこの原稿書いてます。自分の淹れたコーヒーって味の当たり外れが多いんだけど、今日のは美味しく淹れられました。GOOD!
映画は11の短編に分かれていますが、どれも基本的にモノクロ、コーヒーショップの片隅、2〜3人の登場人物、というフォーマットで出来ています。時たまテーブルの上から俯瞰した映像が写され、テーブルに並ぶコーヒーポットやコーヒーカップ、灰皿、煙草、ナプキン…のショットが挿入されますが、この「絵」が妙に洒落た雰囲気でナイス。なんだかそのままポストカードなんかに使えそう。あと、映画を観る前に登場する俳優のバックグラウンドを知っておいたほうが楽しめます。○○とXXの組み合わせだから面白い…という部分もありますから。オレは一番最初の短編「変な出会い」の登場人物の一人が「ライフ・イズ・ビューティフル」のロベルト・ベニーニだと後で知って、ああ、最初からそう知ってて観た方が面白かったなあ、と思ったもんです。
エピソードをざっと紹介しましょう。スパイク・リーの二人の兄妹とスティーブ・ブシェミのかけあいが楽しい「双子」、パンクロックの元祖イギー・ポップと酔いどれシンガー、トム・ウェイツの異色ロックシンガー対決「カルフォルニアのどこかで」、イタリア系移民らしい二人の老人がむっつりしながら対峙する「それは命取り」、ルネ・フレンチなる美形女性にちょっかい出しまくるウェイターがおかしい「ルネ」、ああ、コーヒーテーブルでダイス転がすのってなんだかカッコイイ!「問題なし」、ケイト・ブランシェットはやっぱり美しかった!「いとこ同士」、ロック・デュオ「ザ・ホワイト・ストライブス」の兄妹がゴーグルをしてテスラコイルに神妙に見入る「ジャック、メグにテスラコイルを見せる」、スパイダーマン2のアルフレッド・”ドクター・オクトパス”・モリーナとスティーブ・”24アワー・ピープル”・クーガンの二人がハリウッド俳優の虚虚実実の駆け引きをする「いとこ同士?」、この映画で一番笑ったHIPHOPグループ・ウータン・クランのメンバー2人とビル・マーレーが珍妙な会話繰り広げる「幻覚」、ラストは映画界の立役者であるのであろう2人の老人が、どこともなく流れてくるマーラーの調べに耳を澄ます様が静かに胸に迫ってくる「シャンパン」、…と、今振り返ってみてもどれも個性溢れて楽しめるエピソードだったな。
じつの所、ジム・ジャームッシュってあんまり得意じゃなかったんですよね。「ストレンジャー・ザン・パラダイス」って寝まくったもの。ただ、ジャームッシュ映画って、ストーリーを追うんじゃなく、その場その場の映像の雰囲気を楽しむもんだと判ったら、結構観れるようになった。さっきの「ストレンジャー〜」なんか、ずっと後で深夜にTV放送していたのを観るでもなく観ないでもなくボーッと眺めていたら逆に面白さが判ったもの。このコーヒー&シガレッツも、DVDが出たら、環境ビデオみたいにTVでダラダラ流しておいて、気の向いた時にひょっと眺める、なんて楽しみ方してみたいですね。
音楽も凝っていましたが、個人的にはスカの流れているカフェっていいなあ、とか思った。あと「ジャック、メグにテスラコイルを見せる」では壁に貼ってある肖像写真が誰だろう…と思ってたんですが、パンフ見たらリー・マーヴィンだという事が判明。故人ですが悪役で有名だったハリウッド俳優です。このセレクト渋いよなあ。そしてエンド・クレジットでは「LONG LIVE JOE STRUMMER!(ジョー・ストラマーよ永遠に!)」の文字を発見!UKパンクロック黎明期にセックス・ピストルズと並んで名を馳せた伝説のバンド、クラッシュのボーカルだった人です。彼も2002年に50歳の若さで夭折しましたが、こういう細かい記述がとても心憎い!彼の名前が出る事自体がこの映画のひとつのメッセージになっているような気がしてとても感銘を憶えました。