デビッド・ボウイ・リバイバル その3

《ジギースターダスト》はアルバム発売当初日本では《屈折する星屑の上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛の群れ》というなんだか物凄いタイトルで発売されている。原題の「The rise and fall of Ziggy Stardust and the Spiders From Mars」の直訳だが、多分キューブリックの映画《博士の異常な愛情:またはいかにして危険なことも忘れ私は原爆を愛する事になったか》の長いタイトルのモジリではないかと思われる。アルバムは《ジギースターダスト》というロックスターの栄枯盛衰をあたかもロックオペラのようになぞってみせたものだが、ステージ自体もシアトリカルなものであったらしい。それよりもこれだけ喧騒に満ちたアルバムのジャケットが、うらぶれた街角に小さくぽつんと佇むロックスター、というコンセプトなのが素晴らしい!ボウイのアルバムジャケットの中で一番好きだ。
この《ジギースターダスト》のステージはあとで《ジギースターダスト・ザ・モーションピクチャー》で映像化されている。このライブ映像、音源ともこの頃のボウイの凄まじい熱気を感じることができるという意味で貴重である。これまでボウイは《デビッド・ライブ》《ステージ》と何度かライブ・アルバムを出しているが、それらと比べても段違いの緊張感と演奏のソリッドさが際立っている。また、クライマックスではベルベット・アンダーグラウンドの「ホワイト・ライト・ホワイト・ヒート」、そしてボウイ自身の死生観が濃厚に反映されているだろうと思われるジャック・ブレル*1の「マイ・デス」が演奏され、ボウイというアーチストの内面に肉薄していく上で実にスリリングな内容になっている。そしてラストの曲は「ロックンロールの自殺者」。「君は一人ぼっちじゃない 僕に手を差し伸べて」と歌われるこの曲で会場は最高潮に盛り上がり、ここで、会場から一人の少年が飛び出してきてステージのボウイに抱きつくのである。どうも後から思うにそういう演出だったようなのだが、《アーチストとファンが最後に一つに交合する》という図式こそはそもそもロック・ステージに求められていたものなのであり、ファンの比すべくも無い絶頂感(性的な意味もある。ロックとはセックスでもあるのだから)と共に終わるステージこそが、本当のステージなのだ、とこの映画を観ていると伝わってくる。
ちなみにこの映画は撮影後暫くお蔵になっていて、実際の上映は1980年代頃だった。日本での初上映は映画館ではなく渋谷公会堂で1ナイトのみあった。文字通りコンサートの感覚である。かくいうオレもいそいそと観に行った。そして終映後、映画なのに「アンコール!」と拍手しだしたのは何を隠そうこのオレなんです…。
さて《ジギースターダスト》で強大なキャラクターを手にしたボウイであったが、このペルソナにも飽きてさっさと終結宣言、続く《アラディン・セイン》、カヴァー集《ピンナップス》さらに《ダイヤモンド・ドッグス》《ヤング・アメリカン》…とアルバム発表の都度に新たなキャラクターを打ち出しコンセプトを一新してファンの前に現われるその様はある種超人的な雰囲気さえあった。
ところで、ベルベット・アンダーグラウンド(=VU)の名前が出たのでちょっとだけ。VU、NY、アンディー・ウォーホール、60年代、アンダーグラウンドシーン、退廃と前衛、とキーワードだけ書いてお腹いっぱいになってしまうが、このVUのボーカル、ルー・リードのアルバムトランスフォーマー(もうタイトルから「性倒錯」だもんな)のプロデュースを《ジギスターダスト》時代のボウイが手がけているのだ。VUもルー・リードのほかのアルバムもはっきり言ってたいした興味が沸かないのだが、この《トランスフォーマー》は《ジギースターダスト》の熱気が伝染した画期的なアルバムであり、ポップミュージックとして大変完成度が高いと思う。ある意味《裏ジギー》とも取れる作品です。有名な《ワイルドサイドを歩け》もこのアルバム収録。なにしろ、ホモセクシャルレズビアン、服装倒錯、麻薬摂取、ありとあらゆるアンモラルなものに対して「YES」と言い切り肯定してゆく。しかしこれはある意味「自分らしく生きたい、という気持ちに正直でありなさい」という普遍的なメッセージに他ならない。裏ジャケでも女装したルー・リードの悩ましい姿が拝めます。

The Rise And Fall Of Ziggy Stardust (EMI) [ENHANCED CD]

The Rise And Fall Of Ziggy Stardust (EMI) [ENHANCED CD]

Pin Ups [ENHANCED CD]

Pin Ups [ENHANCED CD]

Ziggy Stardust and the Spiders from Mars

Ziggy Stardust and the Spiders from Mars

Stage

Stage

David Live

David Live

トランスフォーマー+2

トランスフォーマー+2

*1:ジャック・ブレル・・・1929年、ベルギー近郊に生まれ、’60年代に活躍したシャンソン歌手。”シャンソンの革命児”とも呼ばれ、当時のシャンソンの世界では”3大歌手” に数えられた存在。「華麗なる千拍子」「行かないで」などの名曲を残 し、後のロック界にも大きな影響を与えつつ、1978年、49歳の若さで死去。