ボウイ初期の頃の音源はやはりかなり古いものだからファンが資料的な意味合いで聞くぐらいしかないのだが、アーチストの本質的な部分を理解するのにかなり役に立つ事は確かだ。
デッカ版のオリジナル・デビュー・アルバム「DAVID BOWIE」は未聴。しかしこの頃のロックらしからぬ非凡なコード進行は彼の舞台音楽への傾倒から来ている、とは「デビッド・ボウイ詩集」からの受け売り。
実質的なデビューアルバムとして扱われている「スペース・オディティ」は表題作の文字通りスペイシーでその後のボウイの片鱗を伺わせる完成度と、それまでの彼のフォークソング/プロテストソングとの係わりから生まれた他の楽曲とのギャップがありすぎる事が面白い。ボウイ自身はこの頃ボブ・ディランの影響もあり、アルバム「ハンキー・ドーリー」ではディランに捧ぐ曲があるぐらいだ。で、実際会ってみたら「嫌な奴だった」とか言って、フォークやめる所がまたボウイらしいというか。タイトル曲「スペース・オディティ」は今聴いても瑞々しいアイディアとメロディを湛えており、これは時代で風化する事の無い奇跡的な曲だと思う。
続くアルバム「世界を売った男」で楽曲はよりボウイらしくなって来る。それよりも女装姿のジャケットが美しい。彼の女装には、女性化する、というよりも男性女性両方を内包する、意味的な飛躍、超越、何でもありな感性を感じる。しかしこのジャケットは日本初発売時ギターを持って片足を蹴り上げるロックスターなボウイの写真と差し替えられている。確かに内容的にはヘビーなロックンロールが多いので間違いは無いかもしれないが、やはり女装じゃロックは売れないと思われたんだろうな。曲内容は少しずつSF的なものになっていく。タイトル曲はオレはハインラインの「月を売った男」を思い出した。今聞くとアレンジのせいで古臭いが、例えば1曲目「円軌道の幅」はボウイのライブ・ピクチャー「ジギー・スターダスト・ザ・モーションピクチャー」のライブ・バージョンを聞くと滅茶苦茶ソリッドでヘビーで世界の終わりみたいな凄まじい曲であり、この映画の中でもクライマックスに使われていた事がわかる。また、タイトル曲「世界を売った男」はボウイ後期の「アウトサイド」のボーナストラックのライブでは、エレクトリックに処理されたバージョンが聞けるのだが、これがまた背筋が寒くなるほど暗く陰鬱なアレンジになっており、聴き応え十分である。
そしてアルバム「ハンキー・ドーリー」。これは今聞くと小品集といった面持ちだが、実は重要な曲が多い。世界を席巻した「ジギー・スターダスト」と同時に製作されていたという事もあり、個々の楽曲の完成度が高いのだ。特に1曲目、「チェンジズ」。この曲こそがまさにデビッド・ボウイとは何者なのか、を解く鍵ともなる曲だ。常に変化していきたい、というのはデビッド・ボウイという人のアーチスト・コンセプトの鉄則であり、変化こそがデビッド・ボウイなのだ。だからこそ彼はアルバム毎に新たなキャラクター、新たなペルソナを身に纏い、まるでそれまでのボウイとは関係の無いような楽曲で持ってアルバムを作っていったのだ。転がる石に苔はむさず、流れる水は腐らない。感情やしがらみや因習や規約や規則に縛られない。「自由」という言葉は既に陳腐で安物の言葉と化してしまったが、本当の自由とは「変化していくこと」なのではないか。もはや「自由」にさえ居座らない気概。今あるもの、持っているもの、(それは人間関係や、あるいは愛と呼ばれるものも含まれるかもしれない)に拘らない身軽さ。それこそがボウイの哲学であり、それこそがオレのようなファンがボウイに惹かれる諸因なのだと思う。
オレがこのアルバムで最も好きな曲は「オー!ユー・プリティ・シング」という曲。これは自分の子供、そして全ての子供達に充てたメッセージである。
起きなさい、おねむさん
ちゃんと着替えて、お布団を整えなよ
暖炉に薪をくべてくれるかい
朝ごはんもお茶も用意しておいたよ
窓の外に目を向けると なんてことだろう、
空に裂け目が出来て
そこから手が僕へと伸びて来る
悪夢は一団となってやってきて
いつまでもここに居座るように見える
僕らはこれからどうなるんだろう?
僕の居場所はなく、君には喜びも無い
僕は来るべき世界について考える
そこで新しい人たちはある本を手にするだろう
それは自分が何故ここに居るのか
答えを見つける事が出来なくなった人たちの
苦痛と悲しみに満ちた本だ。
そして
有象無象たちは今日一斉にやってきて
どうやらここに居座る気なのらしい
ああ、愛しき者達よ
君たちのお父さんもお母さんも、気が狂ってるんだ
はっきりさせておこう
古い世代は、新しい人たちの為に、道を譲ってあげなければならないんだ
そして次のアルバム「ジギースターダスト」からボウイ黄金期へと突入していくのである。
《続く》
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