ベーコンエッグ

まだ10代の学生の頃だ。本を読んでると、そこに出てくる食いもんとかが食いたくなってくるもんである。その時出てきたのは「ベーコンエッグ」。目玉焼きは知っているが、これにベーコン、それも”カリカリに炙った”ベーコンを付けるのだと言う。数十年前、北海道のクソど田舎に住んでいたオレには実にアーバンな香りがする食いもんだと思った。
「よし、このベーコンエッグというやつを作ってみるべ。」訛り丸出しでオレは思った。ベーコンを買ってきてフライパンで炙るだけである。簡単だ。
で、やってみた。しかし。なんだか想像した物と違うのである。ベーコンはただただゴムのように固く、そして生臭いだけなのである。「こんな妙な食い物が美味いんだべか?都会の人間って変なもん食うべなあ。」オレは首をかしげた。しかし田舎もんの悲しさ、これがアーバンでコスモポリタンな食い物だと思いこみ、たいした美味くもないベーコンエッグをちょくちょく作っては首傾げながら食ってたのである。
そして何年か経ち、カッペは上京。都会のコンクリートの臭いに咽ながら、ある日オレは近所のスーパーに入った。加工肉コーナーを覗く。ふと見たそのコーナーでオレは「ベーコン」を見つける。そしてオレはある重大なことに気づいた。こ・これは。
「ベーコンって、豚肉で作ったもんのことなの!?」
説明しよう。実はオレの住むど田舎では、「ベーコン」とは「鯨ベーコン」のことを指すのである。酒のつまみでは一般的な食い物だった。というか、鯨以外のベーコンなど、見たことも聞いた事もなかったのである。硬くて生臭いわけである。だって鯨なんだもの。
「オレが今まで食っていたベーコンエッグは…鯨ベーコンエッグだったのか!」そしておれはスーパーの食肉コーナーでへなへなと崩れ落ち、自分のカッペ加減に呪詛しながらさめざめと嗚咽したのである。

《これが鯨ベーコン。殆ど脂身。今は100g2500円もする高級品。》