デビッド・ボウイ/ロウ

ロウ

ロウ

1975年、それまで活動していたイギリスを離れたデビッド・ボウイはアメリカに渡り、2枚のアルバムを製作する。1枚はジョン・レノンの協力も仰いだアルバム「ヤング・アメリカン」。これまでのスペイシーなロックンロールとは打って変わったソウル・ミュージックをフィーチャーしたこのアルバムのヒット曲、「フェイム」は全米1位を獲得、さらに白人歌手として初めて「ソウル・トレイン」に出演。続いて発表された「ステイション・トゥ・ステイション」はラテンのフレーバーも効いた硬質なサウンドを奏で、ボウイ中期の最高傑作アルバムとなる。同じ頃、ニコラス・ローグ監督による初の主演映画「地球に落ちてきた男」が製作・公開され、まさにボウイ黄金時代が到来したかのような時期であった。
しかしその後2枚目のベストアルバムを製作したあとボウイはヨーロッパに舞い戻る事となる。まだ冷戦の続くこの頃、ボウイはベルリンの壁近くのスタジオでベルリン3部作と呼ばれるアルバムの第1作を製作する。そのアルバムがこの「ロウ」である。
かつてないほどの分厚いシンセサイザー音と内省的で個人的な歌詞。そしてアルバムの殆ど半分がインストゥルメンタルで占められた異例の構成。アルバムジャケットの燃える橙色に染まった背景は、ヨーロッパの黄昏の色であり、どこの国の言葉とも取れないホネティック・ランゲッジとよばれる架空の歌詞で歌われる曲は、様々な国家の混成するこの大陸の、どこでもありどこでもない言語で歌われた歌なのだろう。東西冷戦が未だ永遠に続くかと思われた20世紀末西洋文明の閉塞感と緊張感。それに触発された、ボウイの幻視する西洋文明の終焉を描く音響がこのアルバムである。