ヨットクラブ/デイヴィッド イーリイ

ヨットクラブ (晶文社ミステリ)

ヨットクラブ (晶文社ミステリ)

「壜の中の手記」に続き、また晶文社ミステリ。これも異色作家短編集と言った趣です。
何処にでもいそうなありふれた人たちがフッと日常を踏み外してしまう、その瞬間を切り取った作品群。どの物語も冒頭からなんとも言いようの無い不安感が通奏低音のようにストーリーを包み込んでいます。超常現象やSF的なことは何も起りませんが、例えば「隣人たち」は、町に越してきたある家庭を巡る心の冷え冷えとする話しだし、タイトル作品「ヨットクラブ」は淡々と語られていたヨットクラブという秘密の友愛会の話が、ラスト数行でいきなり狂気の暴走を始める、という、「奇妙な」と総括するしかない短編が収められています。
一番面白かった短編は「タイムアウト」。何年も何年もイギリスに行ってみたいと思いつつ、なぜかいつも邪魔が入り思いを果たせなかったある大学教授が、やっと念願かなってイギリス旅行に行くことになるが…。という端緒から、物語はいきなり大法螺に次ぐ大法螺が展開してゆきます。よくもまあ、こんな有りそうも無いこと思いつくなあ、と思いました。
他に、「G.O´Dの栄光」は自分は神だ、と思い込んだある冴えない男の、滑稽で残酷な物語。皮肉に満ちたラストがいい。「大佐の受難」「夜の客」はパラノイアックな狂気に取り付かれた人々が、やはり最後の最後になって取り返しの付かない世界へ行ってしまう、というコワイ話。
ただ、どちらかというと普通小説の雰囲気も強いです。「壜の中の手記」には負けてるなー。