CODE46 (監督・マイケル・ウィンターボトム 2003年イギリス作品)

また銀座っすよ。連荘で劇場通いっすよ。今月観たい映画一杯あるんで忙しい。
タイトルの「CODE46」というのは、映画では鹿爪らしい事言ってますが要するに優生保護法と言うか、「同一遺伝子を持つもの同士の交配の禁止」ということらしい。これ破ると記憶消されちゃうんだって。まあ怖い。
遺伝子がらみのSFだと「ガタカ」があるし、産児制限では「赤ちゃんよ永遠に」って映画がありましたね。どっちにしろ管理社会ディストピア。なんだ、またディストピアかよ!なんか「ディストピアSF映画史」とか作ってみたくなるな。「未来世紀ブラジル」とか「未来惑星ザルドス」とか「2300年未来への旅」とかね。
この作品世界で何故同一遺伝子同士の交配に対しここまで管理・監視されているのかと言うと、クローン技術が一般的になって、一つの胚から誕生した嬰児があまりにも多いかららしい。しかし何故自然分娩ではなくクローンが一般的になったのかは説明されていない。しかもそれが追跡不可能な数までクローン培養される、というのも、人口増加しているはずの未来世界では少し理由が判らない。例えば、「何らかの理由によって、人類は受精による妊娠が不可能になった、その為、クローンによって種の保存を図らなくてはならなくなった」とかいう理由を付けるべきだ。
さてそこまで管理してるのに、まるで古典SFに出てくるドーム都市のように、都市の内に平常な市民を、法律を犯したものは都市の外の荒野に追放を、という図式がよく判らない。なんだ、それにこの都市って奴は、中世の城壁都市のように監視所通らなければ他からは出入り不可能か。そこまで徹底するコストはどれだけ掛かるってんだよ。そもそも発達した都市は溶けたアイスクリームのように外側へスプロールしながら発展していくというのは都市論の基本だろ。境界なんかが設けられるようなもんじゃないだろ。
で、あと、未来都市上海で起きた事件を、何故アメリカからアメリカ人が来て捜査するんだ?なんも説明ないぞ?
で、この捜査官は何故、会ったばかりのこの犯人であるヒロインに惚れて、あまつさえその日のうちに一発やっちゃうんだ?家庭を裏切り職務を反故にするこの男の内面的理由は一体なんなんだよ?
で、さらに、なんで、このCODE46というのに抵触すると、記憶消されちゃうんだ?記憶消されたらまた同じ事やっちゃうじゃねーか!
というわけでSFとしてはボロボロの出来です。SF映画というのは「細部に神が宿る」がごとくに作らなければならないのです。なぜならSFとは「誰もが見たこともないもう一つの現実」だからです。説得力のない世界観は世界を作った事になりません。
結局、監督がこの映画の重要テーマとして盛り込みたかったのは、「愛し合いながら、記憶を消されてしまう男女の悲劇」だと思うんだが、それも説得力不足だったため悲劇だかなんだかわかんないまま映画は終わる。
と、ここまで貶しておいて、次は良かった点。
やはり、主演のティム・ロビンスがいい。この俳優のいつも混乱した顔をしているところがいい。主演女優のサマンサ・モートンは「マイノリティー・リポート」のプレコグの女性です。あの時は頭つるつるでしたが、今回もベリーショートです。スチールではちょっと魅力なかったんですが、映画では実にエキセントリックに登場人物を演じていました。
ロケーションは多分殆ど現実の、現代の上海で行われたんでしょうが、これがまたいい雰囲気を出していた。セットは少なめで、この上海の街並みだけで、未来だ、と言い切った力技は評価する。
SF的小道具は「現代の微妙な延長線上」というところが心憎くて良い。それと「共鳴ウィルス」とかいう、服用すると相手の思考を読めてしまうカプセル。遺伝子操作したレトロウィルスで思考の何を改変するのかわからないが、ナノマシンだと思ったほうがしっくり来るような気がする。どっちにしろなんだかディック風の小道具だ!
そして音楽。おーい!クラッシュのミック・ジョーンズが出演して「ステイ・オア・ゴー」歌ってるぞ!ほかにもなんだかビデオクリップでも見てるみたいに音楽と歌詞と映像がシンクロして、心地よいメランコリーに浸れる。この辺の音楽の使い方のセンスは良い。ラストのコールド・プレイの曲も主人公の女性の気持ちを代弁してるかのような切ない切ない音楽だ。
ちなみにこの映画の原典はゴダールの「アルファビル」らしい。オレは観たことがないので何とも言えないが、そっち方面で興味のある方はチェックしてみるといい。