スチームボーイ /監督・大友克洋 (2004年・日本)

普通に冒険活劇かな、と思ってそんなには期待してなかったんですが、ありゃーっ!すいません!これおもしれーや!失礼しました!
ストーリーは確かにジュブナイルSFと言った趣のとてもオーソドックスなスチーム・パンクSFなんですよ。でもさ。そんな所じゃないんだよ、この映画の見るべき所は!何しろもう執拗に書き込まれた(ないしはレンダリングされた)“絵”ですよ“絵”!!もう気が遠くなるぐらい細かいですよ!確かにCGのお陰でアニメの技術・見せ方は飛躍的に向上したとはいえさ。何だか訳わかんないところで訳わかんない小さな機械がチマチマチマチマ動いてたりするんですよ。動く機械の重々しさは恐ろしくリアルで、逆に実写・特撮でもこの重々しさはでないと思った。
それと蒸気!蒸気!蒸気!あの蒸気、爆煙の動きの生き物のような様と言ったら!まるでモクモクと動く巨大な捕食動物の襲来のようにさえ見えて、見ていて怖いぐらいでした。あと爆発し吹き飛ぶ瓦礫の動きの実に本物らしいこと!これもコンピューターのプログラムで何ぼでもリアルに動画させられるのでしょうが、オレがCG関係の映画で一番言いたいのは、CGの技術じゃないんですよ。「見せ方」なんですよ。動く、ということの演出なんですよ。これがヘボかったら何10億掛けたレンダリングも単なる退屈な大根役者なんですよ。なにしろ蒸気の動きには目を見張りましたよ。爆発の描写もよかったなあ。
そして、大友克洋のことだから、多分完璧に時代考証したと思われる大英帝国の建築物、街並みと人々の風俗、様々な乗り物。これもまた、その細かさに眩暈がしそうになりました。
そしてメカ!メカメカメカ!スチームパンクらしいごつく重々しく生物的フォルムの戦闘メカ。第一次世界大戦頃の兵器のフォルムを参考にしたりしているのであろうが、その動きの巧みさ、面白さは、もう、「映画観ろ!」としか言えない魅力に満ちてました。デザインもいいんだけどさ、何しろ動いてる所がカッコいいんだよ!しかもそれが“蒸気潜水艦”だの“蒸気戦車”だの、なんでも蒸気なのが可笑しくて可愛い!!
なぜ蒸気なのか?というと舞台が19世紀の世界だからですが、実際の所、内燃機関が発明され実用化されるのは19世紀半ばまで待たなければならないんです。スチームパンクというのはサイバーパンクから派生した言葉なんですが、蒸気機関が、内燃機関が発明されないまま進化・進歩していった、いわゆるパラレルワールドを描いているんです。そこでは蒸気自動車が走り、蒸気映画が上映され、蒸気クレジットカードを使い、そして蒸気コンピューターで蒸気インターネットを使用している…という不思議なもう一つの世界が描かれるんですね。*1
あとは実に大友作品らしいキャラ達。なんだかソラマメみたいにツルンとした顔の主人公、怪しいヘアスタイルと時代がかった喋り方、そしてなにしろいつも上半身裸!のおじいちゃん。怖いんだか笑わしたいんだかよく判んない、半分機械化しちゃった体のお父さん。でも、このお父さん、後半機械と合体したりするんですよ。サイバーだなあ。そして!我儘で喧しい、アニメ史上もっとも萌えないヒロイン・スカーレット!いいなあ、大友作品の女子っていつも可愛くないんだよなあ。
だからさあ、「人物描写が云々」とかいう退屈な議論しないで欲しいのよ。このアニメは兎に角動き!動くのが楽しい!というのを見せる為に、人物もストーリーもあえて類型的になってるわけなんだからさ。最初に「判りやすさ」から入ろうとしてるんだよ。なんか、日本の映画ファンって、映画の“絵”を観るセンスって足りないような気がするなあ。
惜しむらくは画面が若干暗くて、何が起ってるのかよく判んない事がよくあったこと。でもこれは映画館のせいかも知れない。この辺はDVD買っても一回チェックですね。なにしろ、もう一度みたい、あそこの場面のあそこの書き込みはどうなってたの?ともう一回チェックしたくなること請け合い、1回だけ観たんじゃ勿体無いぐらい実によく作りこんだビジュアルのアニメです。