百器徒然袋 風 / 京極 夏彦 (著) 講談社ノベルス

百器徒然袋 風 (講談社ノベルス)
“憑物落とし”京極堂シリーズに登場する天下無敵の探偵・榎木津礼次郎を主人公に据えた中編集の第2弾。
京極堂シリーズではこの榎木津礼次郎が一番好きなキャラクターだったりします。眉目秀麗、腕力最強、“他人の記憶を読む”という得意な能力を兼ね備え、旧華族で大企業の御曹司、という完璧なヒーローでありそうに見えながら、しかし!性格がむちゃくちゃ!人を人と思わない!言ってる事の意味が判らない!幼児的!行動が粗雑!という、眩暈のしそうなアンバランスさがひたすら魅力です。理屈が多く、何処と無く陰惨だったりする京極小説の中にこのキャラクターが現れると、なんだか雲がスーッと引いて陽が見えたようなほっとした気分にさえなります。
今回も3編の中篇が収められていますが、第1弾「百器徒然袋―雨
百器徒然袋-雨 (講談社ノベルス)
も含め、榎木津の物語は基本的にどこかコミカルに描かれ、主題も、彼の“記憶を見る”という特殊能力と旧華族で大企業の御曹司である事に微妙に絡んできます。ただ、第1弾の「探偵・榎木津大暴れ!」といった痛快さが無く、少しこじんまりしている印象が拭えません。1編目「五徳猫」は招き猫の来歴が語られていて楽しい。2編目「雲外鏡」はすぐにネタバレする上に話も不自然でダメかも。3編目「面霊気」空き巣騒ぎと、謎の“呪い面”の出自を巡るミステリが最後まで読むものを引っ張ります。
ただ、基本的に京極夏彦はドタバタ向きの作家ではないような気がします。だからこの番外編もあくまで番外で、京極好きは当然読むべきですが、初めて京極に触れる方はメインのシリーズ、ないしは江戸時代ものから入ったほうがいいでしょう。
ところで、オレ、実は本編の主人公:榎木津礼次郎と似てるんですよ。いや、顔とか腕力じゃないですよ。ご希望に添えなくてすいませんが。似てるんですよ、性格がむちゃくちゃなところが。人を人と思わない!言ってる事の意味が判らない!幼児的!行動が粗雑!そして直ぐ「わはははは」とか笑う!…ええ、まさにオレです…。