お別れ

一通り終わり、妹夫婦と近所の露天風呂に行くことにする。今回、妹の旦那と初めて三言以上会話をする。とても無口な男なのだ。ずっとオレ等家族の運転手役をやってくれていた。露天風呂は気持ちがよかった。「北海道は掘れば結構何処でも温泉って出るんですよ」と彼。あまり会話したことのない男だったが、話してみると思った通り朴訥でいい男だった。
夕方、叔父と叔母が帰るのでお別れを言う。
ところで明日の交通路を確認しなければいけない。来た時と一緒な行き当たりばったりというわけにも行くまい。従妹が一緒に車で早朝の函館行きバスの停留所を確認してくれる。「今回会えてよかった。今何やってるんだろうなあ、ってずっと思ってたんですよ」と従妹。20年ぶりだから、彼女の子供の頃の面影しか知らないオレは少し神妙な気分になる。彼女は随分と泣き虫で甘えん坊な子供だったのを覚えている。今は素敵な女性へと成長して結婚もされている。「でも最近仕事がうまく行ってなくて」。そしてそれなりに人生の重みを背負ったりしている。
歳月のことはオレは考えないことにしている。オレはいつも「今!今!」と喚いている刹那主義者で、自分が歳を取っている事はあまり意識しないし、常に目新しいものを求めて鮫みたいに泳いでいた。しかし何十年かぶりで逢う人たちは客観的な時間の中で歳をとっており、老いてそしていつか滅びてゆく肉体の中にいる。そしてそれは、本当は、オレも彼らと変わらないんだ、ということでもある。今回は親戚の死にも触れたし、ちょっとだけ真面目に考えたオレだった。すぐ忘れるかもしれないけど。オレがたまにまともな人間の振りをすると白けるかい?
今回旅してきたこの場所は、実はオレの生まれた場所なんだよ。育ったのは別だけどね。だから、オレ自身のルーツ探しをついついしてしまう。