“世間知らずのガキ”

喪主のいる家へと到着する。此処の家族とは本当に30年ぶりぐらいだ。子供の頃しか知らない2人の従姉弟の顔を見てもそれと判らない。叔母、叔父夫婦とも20年ぶりぐらい。そして5年ぶりに会う妹。「何道に迷ってんるんだよ」からかわれながら、皆で久々の顔を懐かしがる。
親戚達と酒を飲みながら話す。オレが話をしだすと皆が面食らっている。「お前、性格変わったなあ。昔はろくに口も聞かない子供だったぞ。」叔父夫婦に言わせると、学生の頃のオレは冗談にさえニコリともしない気難しく理屈っぽいガキだったと言う。あの頃は何処に行っても人と顔を合わせず本ばかり読んでいた。今みたいに、どこかのお笑いタレントよろしくおどけた調子でべらべら喋ることなんて無かったんだそうだ。「そりゃ人も変わるさ。東京でいろいろあったんだよ」という訳で東京でいろいろあったとされることをあれこれ面白おかしくでっち上げてさらに笑いを取る。
10代の頃の“本ばかり読んでいる気難しく理屈っぽい生意気なガキ”は不幸な奴だった。自分の事を人とは違う賢い人間だと思っている不愉快な馬鹿野郎だった。ガキは世間知らずだったんだ。こんな人間は社会とそりが悪い。そして簡単にドロップアウト。そこから生活能力のある普通の社会人みたいなものになるまではしんどかった。あちこちで滑りまくりコケまくって、ようやく手にしたのがこのお馬鹿さんのキャラクターさ。此処までは長い道のりだったぜ。
霊前で手を合わせる。今日は通夜だったんだが、此処の風習で、既に火葬は済んでるという。今晩は線香の火を絶やしてはいけないということになっているらしく、オレが線香番をすることになる。皆が寝静まる中、深夜3時まで起きていた。東京のあれやこれやの人にケータイでメールを打ってたので退屈しなかった。ここでもケータイ大活躍!