天の川

(前回までのあらすじ)そうやって2時間あまり。午後9時近く。バスに揺られていたオレが最後に辿り着いたのは、街路灯一つ無く、まばらな民家にさえ家の灯りが点いてない、真っ暗な山の中のバス・ターミナルなんであった。そして、そこで、この鈍い男はやっと気付いた。「此処、何処なんだ?」
取り合えずオレはバスが来た道を逆に歩くことにした。5つぐらい前の停留所に町があった(それ以外は単に何も無い道端に停留所があるだけ)のと、そこにタクシーの営業所を見ていたからだ。荷物は重かったが、急ぐわけでもないし、知らない土地を歩くのは気持ちがいい。だがもう一つの方法として既に親戚の家に到着している弟に救出を頼むという手がある。という訳で携帯電話を掛ける。*1「海岸線を北に向かって歩いてるよ。目印になりそうなものはなにもないぞ。」弟に告げると取り合えず車で向かってるので目印見つけたらまた電話くれとの事。
人気の無い海岸沿いの道をとぼとぼと歩く。夜空には半月に近い八日月。雲の流れが速くて時々月明かりが遮られる。水平線の向こうには小さな光があちこちに点在している。たぶんイカ釣り漁船だろう。街の明かりが無いこんな場所の夜空なら、水平線から上る天の川が見えるはずだ、と思って夜空に目を凝らしたが見えはしない。子供の頃はよく見えたんだけどな、と思って気付く。ああ、オレ、あの頃の半分以下の視力なんだ。
小さな住宅の集落とこうこうと明かりの点いた自動販売機を見つけ、此処を目印にしてくれ、と弟に告げる。CDウォークマンジミ・ヘンドリクスを聴いていたら、ほどなく妹の旦那の運転する車がやってくる。「お前、本当はこういうシチュエーション楽しんでるだろ?」車に同乗していた弟に笑われる。久しぶりに会うけれど、オレの性格はしっかり読まれている。

*1:それにしても、この携帯電話、つい最近買ったばかりなんである。( 6月6日分参照)これが今回活躍しまくりで、偶然のようだがあながちそうでもない、“人生の不思議な符号”を感じたよ。というか今回の帰郷自体、今年突然始まったオレのパラダイムシフトのひとつなんだよな。それも俺の意思に関係無くさ。