ロスト・イン・トランスレーション

やっと観た。賛否両論あるらしいが、いいじゃねえか、この映画。「可愛い映画」だと思うよ。最初は異邦の地に来た男女の孤独についての物語なのかな、と思ったんだが、そんな深刻なものじゃなく、いわゆるひとつのセンチメンタル、について描いたんだよ。「おセンチ」な映画なんだよ。だから見終わった後はホワンとした切なさがあっていいよ。このさりげなさ、何気なさ。重くないというのだってひとつの技巧なんだよ。誰もがベルナルド・ベルトルッチみたいに映画撮る必要なんか無いんだし。
確かに「日本」の掘り下げ方には文句もあるんだろうけどさ。出てくる日本人ってギョーカイ人と水商売の連中ばっかりだし、寂しい二人が出かけるところは結局飲み屋なんだけどさ。白人の描く判りやすい異邦としての日本なんだから。コミカルな表現だって物語を軽妙にしていていいスパイスだと思ったよ。
なにしろさっきのベルトルッチの「シェルタリング・スカイ」あたりも異文化と衝突して自我が崩壊してゆく欧米白人を描いたものだけどさ。他にも常に異邦人としての自己をテーマにして映画を撮るロマン・ポランスキーの諸作品だって、不安感に満ちた作風が多いだろ。それがまたいいんだけど。結局、本気にやっちゃうと、白人って自壊しちゃうんだよ。でも毎回そんなしんどい映画観たくないだろ?
主人公2人は孤独かもしれないけど帰るところもあり、社会的立場だってそれなりに高い。彼らなりの立場とインテリジェンスが選択するのがこの映画のクライマックスであり、そこに破綻や乱調は無いのかもしれないけれど、逆に、だからこそ、センチメンタルなんじゃないか。全体を覆う異邦にいることの微妙に地に足が着かない感じ、その浮遊感。でも、寂しいときに居てくれる人が居ないわけじゃない、ちょっとした安心感。雰囲気がとてもいい映画だったよ。育ちがいいって言っちゃあそれまでだけど、いいじゃない、この映画。