Still / Joy Division ASIN:B000002LOB

ヴォーカルのイアン・カーティスの死後、未発表音源とバンドのラスト・ライブを収めて発表されたアルバム。ビニール盤で持ってたのだが、また聴きたくなりCDを購入。
ジョイ・ディビジョンのアルバムを一枚だけ薦めるなら、2ndであり最後のアルバムだった「Closer」になるだろう。ロック史というものがあるのならレディオヘッドやマイ・ブラディ・バレンタイン、そしてザ・スミスのアルバムに並んで必ず入っていなければならないアルバムだからだ。1曲目から最後の9曲目までかけて、体の薄皮を一枚一枚引き剥がされ、最後にひりひりとした剥き出しの魂だけになって、どこまでもどこまでも光の差さない無限の深海へ沈んで行く、あるいは絶対零度の宇宙空間へと漂っていくような感覚。オレはこのアルバムを聴いていると、終曲に近づくにつれどんどん自分の呼吸が浅くなっていくのがわかる。虚無とか絶望とか死とかに限りなく近い(=Closer)場所。これがこのアルバムだった。
その次に薦められるのは1stの「Unknown Pleasures」だ。だがしかし、これだけだとジョイ・ディビジョンの全てに触れたことにならない。何しろこれでは彼らの作った最高の曲であり最強のシングルである、「Transmission」と「Love Will Tear Us Apart」が聴く事ができないからだ。もうこうなったら4枚組ベストの「Heart and Soul」を買ってもらうのが一番だと思うんだが …。ASIN:B00005MKHQ
更に言ってしまえば、1stにしろ2ndにしろ、天才的なプロデューサーだったマーティン・ハネットの力技がかなり影響しているのが今になってみるとわかる。音楽の完成度は完璧に近いものになっているが、どことなく「矯正されたジョイ・ディビジョン」という感も無きにしも非ずなのだ。その辺のところの様子はジョイ・ディビジョンも登場する映画「24アワー・パーティー・ピープル」ASIN:B00008WJ2Eニュアンスが伝わるんじゃないかと思う。
このアルバムを聴くと、ジョイ・ディビジョンというバンドがいかにパンキッシュであり、そしてアフター・パンク世代のグループだったかが判る。ノイジーなギターにタイトでクールなドラム、そして時にはリードの役割もするベースライン。暗いがどこか脅迫観念的であり、そしてささやきと絶叫の間を行き来するボーカル。パンクは、それまで存在したロック・ミュージックへの辛辣で強力な批評であったが、全てを破壊した後、パンクの子らはもう一度瓦礫の中から新しく音楽を立ち上げることになった。そして様々な個性的なグループが現れ、自由なスタイルのロック・ミュージックが数々生み出されることになったが、ジョイ・ディビジョンはその中で、極めて文学的なスタンスの音楽をやろうとしたんじゃないだろうか。それも過激な、荒ぶる孤独な魂の表現として。このアルバム「Still」は、荒々しく、抑制はされてないが、ジョイ・ディビジョンのレアで等身大の姿に一番近いアルバムなんじゃないかと思う。