「ペイチェック〜消された記憶」

ペイチェック〜消された記憶」を見て来ました。
実はジョン・ウーって監督は好きじゃなかったんですが、フィリップ・K・ディック原作なのとユマ・サーマン出演ってことから取り合えず観てみることにしました。だから大して期待してなかったんですよ。
いやー、ユマ・サーマン好きなんですよー。「バロン」の天女役を見たときにはあまりの美しさに本当に人間なのか?とさえ思ったぐらいです。その後「パルプ・フィクション」の黒いボブ・カットのカツラに白いブラウス、黒いパンツ、そのスタイリッシュさにメロメロでした。「アベンジャーズ」は駄作でしたが、ユマの全身をぴったり覆う皮のつなぎ姿の美しかったこと…。そしてやっぱり最近では「キル・ビル」ですねー。黄色のブルース・リーモデルのジャージ、カッコよすぎです。
P・K・ディックは「ブレードランナー」や「トータルリコール」、「マイノリティ・リポート」の原作者として知られるSF作家ですが、「ブレードランナー」完成時に既に故人になっており、逆に言えばそんな昔のSF作家の原作が今でも頻繁に映像化される、というのは、この作家がいかに優れた、そして驚くべき作品を作り続けていたか、ということの証明じゃないかと思います。SF小説ファンのオレとしても、彼の30作は優に超える作品を殆ど読んでますが、やはりSF作家として、その表現力とビジョンで脅威のアイディアを紡ぎ続けてきた作風は、はるかに別格の凄みを兼ね備えていると考えます。彼の作品の芯になっているのは、グロテスクなまでに異形なテクノロジー、そしてそれに対して、人間、人間性へのあまりに深い共感、哀れみの感情です。Sympathyという単語は単純に「同情」とか「共感」という訳語があてがわれますが、それよりももっと深い、他者そのものになってしまうかのような同調性が彼の作品にはあります。
さてジョン・ウーなんですが。ジョン・ウーの映画って結構観てるんですが、いつも思うのは「大風呂敷」「大雑把」「大法螺」の3『大』ですね!なにしろストーリーの辻褄があってない!出てくるテクノロジーがみんなインチキ臭い!だからどの映画もリアリティーに乏しくて観ていると白けてしまう。にも拘らず無意味に激情的に盛り上げる!もう勝手にやってろよ、って感じ。
ところが、今回の「ペイチェック〜消された記憶」、これがなんと!実に面白かった!!SFっぽくないという話は聴いてましたが、確かにそうだけど、一種のハイテクスリラーとも見ることもできるし、サスペンスの盛り上げ方、謎の鍵になる19個のガラクタの秘密、中盤から盛り上がってくるひたすら追いかけられ逃げ回るチェイス・シーン、ラストを盛り上げる為の数々の伏線、もうドキドキワクワクしっぱなしで久しぶりにストレートで面白い映画を見た!って感じです。
確かに相変わらず辻褄あってなかったし、テクノロジーはインチキ臭かったですが、今回は謎解きの要素があった分、ジョン・ウーの火山噴火のような熱い激情が抑えられたんじゃないかと思うんですよ。だからストーリーがきちんと作られてあった。だからサスペンスに緊張感が増して、そのせいで逆にお得意のアクションシーンが際立った。今回の成功はコレじゃないかと思いますよ!締める所締めて乗りさえよければ、細かい齟齬ってオレあまり気にしないことにしてるんですよ。例えば技術屋の主人公がアクションシーンになると突然大立ち回りを演じる!なんて実に白々しい展開ですが、そこに至るまでのストーリーのテンポが良かったから気にならないんですよ。何しろ面白かったなあ。
あと。今作でも、ジョン・ウーお約束の鳩の飛ぶシーンはあります!