タランティーノの新作映画『ヘイトフル・エイト』がとても長かったのでオレもとても長い感想文を書いてみた

ヘイトフル・エイト (監督:クエンティン・タランティーノ 2015年アメリカ映画)

I.

オレの大好きなタランティーノの3年振りともなる長編第9作が大公開!ともなるとこれは絶対観に行かねばなるまい、とオレは相方さんを誘いいそいそと劇場へ行ったわけである。今作は前作『ジャンゴ 繋がれざる者』と同じく西部劇になるのだという。しかも大西部を舞台にしたドンパチやりまくりの冒険活劇というのではなく、雪に閉ざされたロッジに閉じ込められた8人の男女を巡る密室ミステリーになるのだという。黒澤明の傑作時代劇映画『七人の侍』に対し『ヘイトフル・エイト』はさしずめ「八人の悪人」ないし「八人のクソ野郎」といったとかいう意味になるんじゃない?とは一緒に観に行った相方さんの弁。
とはいえ、映画館で座席を予約する時に考えてしまったのである。何かというと席の場所である。この映画、なんと168分もありやがるのだ。時間で言うと2時間48分、ほぼ3時間近くである。こんな長い映画ともなるとまず気になるのはトイレである。特にオレなどは歳も歳なので小用が近い。3時間近くもおしっこがまんして観続けていられるだろうか…と、まずそのことが心配になる。勢いで席の並びの真ん中に予約をしてしまったが、端っこにしていつでもトイレに行けるようにしておけばよかったのではないか…とそればかりが気になる。
そもそも今の世の中3時間近くも同じ席にずっと座り続けなければならない、というのも考えてみるならどうなのだろう…と思う訳である。いや、トイレに行きたきゃ行きゃあいいもんなのだが、映画を観ている他のお客さんに「すいませんすいません」と言いながらスクリーンを遮り座ってる足をかき分けなつつ劇場を出てゆくのがどうにも申し訳ない。そこで思ったのは最近オレのお気に入りの映画ジャンルであるインド映画である。インド映画もなにしろ長いのだが、あれには途中休憩時間が設けられているのである。日本での公開時にはそれも省かれてしまうが、この間インド人が日本で興行したインド映画を観に行ったらきちんと休憩時間があって、あれは非常に助かった。そういえば大昔かの『2001年宇宙の旅』を劇場に観に行った時も休憩時間があって、あれも助かったなあ、ということを思い出した。というわけで2時間半を超える上映時間の作品には途中休憩時間が欲しい、と切に思うオレなわけである。

II.

長々と映画と関係ない話をしてしまった。しかし全然関係ないというわけではない。今回の『ヘイトフル・エイト』、繰り返しになるがなにしろ長い。映画は何故長くなるのか?というとそれはもちろん描くことが多いからなのだろう。しかし人間の集中力の問題と、それと映画それ自体の緊張感の持続といった点で、長い映画は難しい。あれやこれや目いっぱい盛り込んで3時間ならなんとかなりそうだが、なにしろこの映画は密室劇だ。登場人物もヘイトフル・エイトとか言ってるぐらいだから大体8人ぐらいだ。そういった設定を持つ作品で3時間の映画を作るというのはチャレンジングな話である。ちなみにインド映画が長いのは単にダラダラしているのが風通しがいいのと、途中で歌と踊りが入るから適当に気がまぎれる、というのがあるのである。しかし通常映画でダラダラしたら単なる駄作にしかならないし、ましてやこの『ヘイトフル・エイト』で歌と踊りが入ることはあまり考えられない。つまり「密室劇で長尺」というのはネックになることを知りつつあえてこういった形で製作したタランティーノ監督のチャレンジングな姿勢が既に見えているのである(というか適当に書いてるんだけどチャレンジングって適正な言葉なのか?)。
で、結果はどうだったかというと、少なくともオレにとってこと長さに関してはまあこんなもんじゃない?といった印象である。それがダラダラだったのか緊張感漲るあっという間の3時間だったのかというと、どっちかというとダラダラだったかもね、とも言えるのだが、逆に、ダラダラとタランティーノ映画を楽しむ、という楽しみ方ができる、という言い方もできるのである。
この映画、なにしろどこもかしこもタランティーノなのである。一見どうでもいい無駄話が挟まれ、とても教育によくない差別語と卑猥な言葉がこれでもかと連発されるのである。今作で言えばのべつまくなしにニガニガニガニガ言ってるのである。『パルプ・フィクション』で「ファック」という言葉が出て来るシーンだけを集めた映像がYouTubeに上げられていたのを観たことがあるが、今度はこの『ヘイトフル・エイト』のニガニガニガニガ言ってる場面だけを集めた映像集を誰か作るのだろう。あ、前作の『ジャンゴ』で既に誰かやってるかもしれないけど。

IV.

タランティーノらしいなあ、と思えたのはもうひとつ、決して相容れないもの同士が一つの席につき、うわべだけ友好的に振る舞いながら一触即発の熾烈な腹の探り合いを延々と続ける、といった部分だ。この『ヘイトフル・エイト』はとかくタランティーノ監督の処女作『レザボア・ドッグス』が引き合いに出されるが、「一触即発の熾烈な腹の探り合い」といった部分はどの作品にも大なり小なり一貫して存在しており、むしろこの『ヘイトフル・エイト』ではタランティーノ映画におけるそういった側面を徹底的に追求しようとしたのではないか、とも思えるのである。
さてこの作品のもう一つの特色として中盤からの(というかどの辺りから中盤だったのかすらよく分からないぐらい長かったが)残虐非道大スプラッタバケラッタ大会である。いやもう愉快なぐらいに血が吹き飛び血塗れになり辺りは血の海になってくれる。孤絶した雪山での疑心暗鬼の物語…といった部分で最初カーペンターの『遊星からの物体X』を想像したが、この中盤からの血塗れ山荘展開からいやこれはむしろサム・ライミの『死霊のはらわた』じゃないか、と思ったほどである。登場人物の一人はご丁寧にもいつも顔中血塗れで真っ赤だったりしてるしな!まあこれはオレの引き出しがその程度なだけであり、タランティーノがこの2作を引き合いに出したとはあんまり思えないが、なにしろそんな印象ではあった。
しかしこの大スプラッタバケラッタ大会すらタランティーノにとって新機軸でもなく、かの『レザボア・ドックス』だって相当にスプラッタだったし、あの『キル・ビルVol.1』においては血塗れ過ぎて画面がモノクロに置き換えられたシーンまであったぐらいだったから(レイティングなんだろうけどソフト化の時ぐらいは戻してほしかった…だから『キル・ビルVol.1』はDVDとBlu-rayで画像が違うので両方所有しているぐらいである)、実の所デフォルトでタランティーノなのである。

I.

こうして並べてみるとどのシーンにしても展開にしても実にタランティーノらしいと言うことができ、タランティーノ・ファンとしては存分にタランティーノらしさを、しかも3時間余りに渡って楽しめるという作りになっている作品なのではあるが、同時に「ん?なんか新しいことやってないぞ?」とも思うんである。「密室劇」というのは新しいかもしれないがタラも監督で参加したオムニバス映画『フォールームズ』の一篇もある意味密室ではあった。そもそも最初、「今作もまた西部劇」って部分で「あれ?」と思ったのは確かだ。タランティーノは作品毎に彼自身の映画オタらしいこだわりで面白いことをやってきてくれたが、今作では自分のいつもの手癖足癖でしか作品を作っていないのである。

まあしかし擁護的に言うなら、20代の頃に鮮烈な映画界デビューを飾ってきてから既に20有余年、タランティーノも50を過ぎ既に老年に差し掛かってきているのだ。確かに映画界にはイーストウッドのように80を過ぎてなおクリエティビティに事欠かないバケモノのような監督もいるが、こと独創性で突っ走ってきたタランティーノがぼちぼち自分の持ち味だけで作ったスルメのような作品に移行してきてもおかしくはない。そしてそんなふうに作られたこの『ヘイトフル・エイト』はオレにとっては十分面白かった。この作品が賛否両論だというのも、こういったタランティーノの映像作家としての過渡期の部分に存在する作品だからともいえないだろうか。彼自身も監督業引退をほのめかしているようだが、きっと本人も自らのクリエティビティの限界にそろそろ気付いてきたからなのだろう。だがそれならそれで、彼が最後に咲かせる仇花を見届けるまで、彼のファンでい続けたいと思うのだ。

というわけで今回のオレの日記も『ヘイトフル・エイト』並にダラダラと長く書いてやったぜ!オレも年だから話がクドイんだよ!タラはまだオレの一個下だからそれほどクドさに磨きが掛かってないようだけどな!タラのヤツもまだまだだな!まあなんならタラにオレのクドさの奥義を伝授してあげてもいい!だからいつでも気兼ねなく連絡寄越せやタラ!

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