エキゾチックでカラフルなインド結婚式博覧会〜映画『Band Baaja Baaraat』

■Band Baaja Baaraat (監督:マニーシュ・シャルマー 2010年インド映画)


インド映画といえばロマンスと結婚。この『Band Baaja Baaraat』はその結婚の裏方として活躍するウェディング・プランナーを志し、仕事とロマンス両方で悪戦苦闘してゆく男女を描いた物語です。主演は『pk』『NH10』で注目を集めたアヌシュカー・シャルマー、その相方を『Goliyon Ki Rasleela Ram-leela』のランヴィール・スィンが演じております。ちなみにランヴィール・スィン、この作品がデビュー作となったんですね。

《物語》デリー大学を卒業したばかりのビットゥー(ランヴィール・スィン)は実家の農業を継ぐのが嫌だった為、以前知り合った女性シュルティー(アヌシュカー・シャルマー)がウェディング・プランナーを目指していたことを思い出し、農家に連れ戻しに来た父に「僕はウェディング・プランナーを目指しているんだ!」と宣言してしまいます。そしてなし崩しにシュルティーの元に押しかけ、強引にパートナーになってしまうビットゥー。そしてなんと彼らが起業したウェディング・コンサルタント会社「Shaadi Mubarak」は大成功。しかし大きな仕事を終わらせた高揚感から男女の一線を越えてしまった二人は、次第にぎくしゃくしてゆきます。なぜなら二人は「仕事にロマンスは持ち込まない」と誓い合っていたから。そして大喧嘩の末仲違いをした二人は別々の会社を立ち上げますがしかし…。

映画でしか観たことはないのですが、インドの結婚式ってなにしろ派手って印象ですよね。ちょっと調べてみたサイトでは、なんでも結婚式には年収の4倍をつぎ込み、その式は3日から1週間続き、前夜祭と披露宴では大音量のダンス・ミュージックがかけられて来客者みんなが踊り狂い、新郎新婦の自宅から会場まではマーチングバンド付きのエレクトリカル・パレードが練り歩くのだとか*1 *2。ってかこれ、映画で描かれてる以上に派手じゃないですか!?

この『Band Baaja Baaraat』、結婚式がテーマとなった物語ではありますが、物語がどうこうという以前に、登場するインドの結婚式のその物凄いド派手ぶりにとにかく目を奪われる映画になっているんですね。そしてそれが、中流階級のリーズナブルなものから、富裕層による贅を尽くした式まで、幾つも描かれていくんですよ。さらにウェディング・プランナーの物語ということから、結婚式の裏側まで見られて、なんだかもう「インド結婚式博覧会」てな内容の映画になってるんですね。ですから映画の殆ど場面で所狭しと原色が踊りライトがきらめく結婚式の映像を見せられることになり、そのサイケデリックさになんだかもう脳内にヤヴァイ物質が湧きだしてきて、妙な多幸感に襲われるのです。特に後半の、お城の中庭に設けれたダンスステージでレーザー光線が飛び交う中ダンサーたちが踊るシーンなど、もはや結婚式というよりコンサート会場みたいなんです!こういった部分が観ていてとことん楽しいんです。

そんな結婚式のプランナーとして活躍する二人の主人公は、経験が無いのにも関わらず若さと情熱、あとほんのちょっとの強引さでとんとん拍子で仕事を成功させ続けてゆきます。若者の起業を描いたインド映画としてはクリケット店出店を描く『Kai Po Chi !』(2013)という名作を思い出しますが、それと比べてるとなにもかも順風満帆過ぎてリアリティは薄いかもしれません。しかしこの『Band Baaja Baaraat』は仕事それ自体の大変さよりも映画の楽しさを追求するのを主眼としているみたいで、それが全く気になりません。また、この作品では女性が起業し社会進出するということ、そして女性の仕事と思われがちな仕事を男性がすること、そういったインド社会の変化も描かれているような気もします。そんな主人公たちを演じるアヌシュカー・シャルマーは『Rab Ne Bana Di Jodi』に続き気が強くて頑固者の女性を熱演、ランヴィール・スィンはこれがデビュー作とは思えない貫禄と魅力に溢れておりましたね。

けれども、楽しい楽しいだけではやはりドラマとして成り立ちません。ビジネスパートナー同士にロマンスが芽生えてしまうことで、逆に二人の二人三脚の仕事は破綻してしまいます。しかし、いくら「仕事にロマンスは持ち込まない」という最初に誓った不文律を破ったからと言って、それが原因で二人の仲がギクシャクし仲違いする、といった物語展開はどうも理解しにくいものがあります。愛し合ってるなら愛し合っているなりの新しいパートナーシップが築けるはずではないかと思うんですね。ただしこういった不自然な物語運びも、映画の方便だと思えばやはりそれほど気にならないんですよ。なにしろ映画全篇に登場する様々な結婚式のシーンが凄すぎて、細かい部分をあれこれ言う気が起きないんですね。そういった意味でとても楽しめた作品でした。

http://www.youtube.com/watch?v=k67ErU7SeIE:movie:W620