男装姿でクリケット・チームに潜り込んだ女性を描くラブ・コメディ〜映画『Dil Bole Hadippa!』

■Dil Bole Hadippa! (監督:アヌラーグ・スィン 2009年インド映画)


インドでは国民的スポーツでもあるクリケット。このクリケット競技に女だからという理由で出場できないクリケット大好き女子が一計を案じ、男装姿でチームに潜り込んで大奮闘!しかし、女性の姿でいる時にチーム・キャプテンに見初められ、お話はどんどんややこしい方向に進んでしまう、という作品です。主演のクリケット女子をラーニー・ムカルジー、チーム・キャプテンをシャーヒド・カプールか演じておりますよ。

《物語》クリケットの印パ親善試合で毎年負け続けているインドチームにテコ入れする為、新たなキャプテンとしてイギリスからプロ・クリケット選手ローハン(シャーヒド・カプール)が呼び戻されます。一方、ダンス劇団の一員、ヴィーラー(ラーニー・ムカルジー)は男性以上の腕前を持つクリケット好きな女性で、選手になろうと印パ戦新人クリケット選手選考会場に赴きますが、性別を理由に追い帰されてしまいます。しかしヴィーラーは諦めず、ヴィールという名の男に変装して会場に潜り込み、まんまと選手に抜擢。そんなある日、更衣室で女性の姿をしているところをローハンに見られてしまったヴィーラーはとっさに「私はヴィールの妹です!」と言ってしまいます。しかしそのヴィーラーにローハンが恋をしてしまい、物語はあらぬ方向へ!?

この作品、クリケットを巡る物語ではありますが、それだけではない幾つかの要素が混じりあい、実に楽しめる作品に仕上がっていました。まずなんといっても、素の女性姿と男装姿を切り替えながら画面に登場するラーニー・ムカルジーの熱演でしょう。ラーニー・ムカルジー自体、非常に豊かな表情を見せる表現力に優れた女優ですが、この『Dil Bole Hadippa!』もそんなラーニー・ムカルジーの魅力をたっぷり堪能できる内容になっているんですよ。チャキチャキにはしゃいでいるかと思うと愁いのこもった表情でそっと佇んでいたりする、この情感の起伏が素晴らしいんですね。

この作品では簡易ターバンに髭面というむさ苦しいオヤジの扮装をしてクリケット試合に挑むラーニーさん、目がクリクリし過ぎてる上に小柄だからあんまり男性に見えなくて、「これはすぐ気付かれるだろ!」とは思うんですが、愛嬌たっぷりに演じているのでよしと致しましょう。そんな男装ラーニーさんがスポーツチームという男性社会の中をおっかなびっくり渡り歩こうとする姿が可笑しくもまた可愛らしいんですね。なんといってもキャプテン役のシャーヒドに「俺、お前の妹に惚れちゃったよ!」と打ち明けられた男装ラーニーさん(要するに本人)のドギマギぶりには爆笑してしまいました。

そしてクリケットです。クリケット試合をメインとしたインド映画、というとなによりまず名作『Lagaan』を思い出しますね。あの作品を観ていてもクリケットのルールがよく理解できていないオレなんですが、それでも試合の流れはなんとなく掴めたので、この『Dil Bole Hadippa!』のクリケット・シーンも十分に楽しめました(もちろんルールが分かっていればもっと楽しめたはずですが)。クライマックスに用意された試合ではまさに一進一退、さまざまなアクシデントに遭いながら勝利を目指すチームの姿はやはり盛り上がります。そして女性であること隠して試合に出場する是非への答えもちゃんと用意されていて、スポーツ物語らしい感動へと結びついてゆくんですね。

しかし自分がこの作品で最も惹かれたのはその美術の美しさ楽しさ、そして舞台であるパンジャブ地方の風景を愛おしむかのように写す映像です。クリケット主体の作品という印象で観始めたので、正直ここまで美術が美しいと知らずに驚きました。その美しさが最も発揮されていたのはダンス劇団を中心とした歌と踊りのシーンで、美術や衣装がとてもカラフルで、びっくりするほど楽しいんですね。また、主人公カップルの初デートシーンもファンタスティックで素敵でした。そしてパンジャブ地方の田園地帯の光景、その地で働く農民たちの姿は、イギリスからインドに帰ってきたローハンが「こここそ自分の国なのだ」と納得させるほどにおおらかで心洗われるような優しさに満ちていたのです。