ワールドカップ女子フィールドホッケーに賭ける夢〜映画『Chak De! India』

■Chak De! India (監督:シーミト・アミーン 2007年インド映画)


負け犬の烙印を押されたフィールドホッケー選手が、寄せ集めで結成され誰も成功を信じていない女子ホッケーチームのコーチに抜擢され、選手と共に血の滲む思いでワールドカップを目指す!というインドのスポ根映画です。主演となるコーチをシャールク・カーンが演じております。

《物語》男子ホッケー・チームのインド代表キャプテン、カビール・カーン(シャールク・カーン)はワールドカップ決勝戦パキスタンに敗退し、インド中から罵声と怒号を浴びせられたまま姿を消した。それから7年。ワールドカップに向けて女子ホッケー・チームが結成されることになったが、実の所ホッケー協会は女子ホッケーに何も期待していなかった。そしてそのコーチとして任命されたのがカビールだった。インド各州から集まった選手たちは我の強い協調性の無い者ばかりでトレーニングは難航続きだったが、カビールの手腕によりなんとか形になろうとしてた。そんなある日、予算の都合から女子チームの出場見送りが協会から言い渡される。そこでカピールは協会幹部にこう告げた。「男子チームと戦って勝てたら大会出場させてもらえますか?」

インドのスポ根映画というとマラソン世界大会を描いた『ミルカ』、クリケットの熱いバトルが繰り広げられる『ラガーン』など大傑作を思い浮かべますが、この『Chak De! India』はフィールド・ホッケーが主題となっているんですね。馴染の薄いスポーツですが、実はこのホッケーこそがインドの国技なのだとか。さらにこの作品では女子ホッケーをテーマとしており、相当珍しいのは確かです。例によってルールはよく分からない運動音痴のオレではありますが、サッカー的なものだろうな…という認識で観ていたらクリケットよりは理解できましたよ!

この『Chak De! India』、スポ根映画として非常に盛り上がりを見せ、楽しく鑑賞することのできた作品ですが、かといって物語それ自体に新鮮味があるということはないんです。脛に傷持つ者が弱小スポーツチームを率いることになり、山あり谷ありのドラマを経て華々しい結末を迎える、といったストーリーはハリウッド映画にも多々あるでしょう。こういったお約束の展開でも十分楽しめるのですが、この作品にはこの作品ならではの見所があるんです。それはインドならでは特色であったり、インド映画らしい展開だったリします。

まずこの作品、冒頭からチームに参加する女子ホッケー選手が大勢登場するのですが、それぞれの選手がインドの各州から一人ないし二人といった形で集まってくるんですね。インドはとても広い国ですから人種も微妙なグラデーションを見せ、これら選手の顔つきのバリエーションを見るのがとても興味深かったんですね。まあ実際、これら選手役の俳優たち全てがその地の生まれということもないでしょうが、実にそれらしく見えるのですよ。そして、インドのあらゆる州から集まった選手ということから、その総体であるチームは、インドそのもの代表である、一つに団結したインドである、というメッセージが伝わってくるんですね。この辺から既に熱いじゃないですか。

そして、これら女子選手たちというのが、全員全く可愛げのないゴツイ顔した女子ばかりだというのがまたいイイ!はっきり言っちゃうと、ええと、ブスいんですが、そのブスさがイイ!リアリズム溢れているというのでしょうか、特に彼女らの闘志に満ちた目つきは本物のスポーツ選手のようだ。実際に本物のホッケー選手は数名で、あとはオーディションだったようですが、製作者側は見た目の可愛らしさなんかよりもスポーツ選手のリアリズムを俳優に求めたということでしょう。こういうのってなかなかできないと思う。こんなですから「女子ホッケーチーム」といってもきゃぴきゃぴした女子がきゃっきゃうふふしたドラマなんかを期待するのは大間違いです。ええ、全く甘さの無い、マジのガチなスポ根映画なんですよ。

こんな彼女らがシャールク演じる鬼コーチのもとでまさに血を吐くような練習に明け暮れるんです。今回のシャールク、ホントに鬼です。映画『アシュラ』からもうかがわれるようにサディスティックな演技も得意とするシャールクです。しかし厳しさの果てに成果が生まれることで、最初は対立していた選手たちと信頼関係が生まれてゆくんです。そしてこの物語、ロマンス展開が殆ど無い(恋人のいる選手のみ)というのもまたいっそ清々しいんです。

インターミッションを挟んでの中盤からは徹底的に試合の連続、一進一退を繰り返す競技の行方に目を離すことが出来なくなること必至です。そんな中凄いなあ、と思ったのは、練習中あんなに厳しかったコーチが試合の結果が悪かったとしても選手を叱責したりはしない所だったんですね。ここまで育てた選手を、コーチはきっちりと信頼している、きっと彼女らはやってくれる、そんな言葉に出さない想いがびんびんと伝わってきて、それがまた胸を打つんですよ!こんな具合に最後まで熱い!スポーツドラマでしたよ!

http://www.youtube.com/watch?v=6a0-dSMWm5g:movie:W620