若きJ・キャメロンが参加したR・コーマン製作のカルトSF映画『ギャラクシー・オブ・テラー 恐怖の惑星』

■ギャラクシー・オブ・テラー 恐怖の惑星 (監督:B・D・クラーク 1981年アメリカ映画)


1981年、「低予算映画の王者」「大衆映画の法王」ロジャー・コーマン製作のSF映画。タイトルは直球そのまま『ギャラクシー・オブ・テラー』。そしてそのポスターが60年代SF小説誌を思わせるノスタルジックでキッチュなSFイメージとくれば、その出来はなんとなく想像できるというものだ。低予算、チープ、グラインドハウス的な扇情と分り易さと下世話な通俗性、そして「お代の分はしっかり楽しませますぜ」という商売人根性。それでSF映画とくれば、気軽なノリで楽しめそうだ。だからチープさを楽しむぐらいのつもりで、肩の力を抜いて映画を観始めたのだが…むむ?この映画、意外としっかり作られたSF作品じゃないか?
物語は遥か未来、主人公たちの乗る宇宙船が未知の惑星に遭難した探査船を救出しに向かう、といった所から始まる。しかしその惑星には太古の昔にうち捨てられたと思しき不気味な遺跡がそそり立ち、そこへ向かうクルーたちは謎のクリーチャーに一人また一人と嬲り殺されてゆく、というわけだ。この粗筋からは誰もが映画『エイリアン』を思い浮かべるだろう。『エイリアン』は1979年製作、1981年製作のこの『ギャラクシー・オブ・テラー』は当然その影響下にあり、大ヒット映画のエピゴーネンとして作られたことは製作者たちもインタビューの中で認めている。しかしそれだけでこの映画を即愚作だと決めつけるのは早計だ。同じプロットを拝借しながら、どのように異なるものを描こうとしたのか、がこの映画の見所ともなるからだ。
まず驚かされたのは、「低予算にしては」という但し書き付きで言うのは少々失敬かもしれないが、この『ギャラクシー・オブ・テラー』、まず低予算にしては宇宙船内のセットがしっかり作られているのだ。そして、宇宙船クルーたちの衣装デザインが悪くない。このクルーたちというのも、それぞれ絶妙にキャラが立っていていい。しかもエルム街でブレイクする以前の、あのロバート・イングランドが出演している!クロマキー合成された宇宙基地や異星の情景はきちんとSFしている。さらに物語後半での異星の異様な建造物内のセットが、「低予算の筈なのに、これって大盤振る舞いしちゃったんじゃないのか」と製作者の財布の中身を心配してしまいそうなぐらいきっちりと組んであったのだ。『エイリアン』のギーガーを意識しつつ、単なる真似ではなく独自なデザインを打ち出している部分にも実に好感が持てる。
これらのSFイメージは、付け焼刃の物ではなくSF映画の絵造りを「分かっている」人の物であるという気がする。要するに、低予算だからといって、決してハンパなものを作っていないのだ。しかも物語は、『エイリアン』で始まりながら、そのクライマックスでSF映画の名作『禁断の惑星』を踏襲しているではないか!この映画、やはりハンパなものではない。
なんだ?この低予算映画の皮を被った技アリのSF映画は何なんだ?と思いつつ付録の特典映像を見てびっくり、この映画、なんとあのジェームズ・キャメロンがプロダクション・デザイン、さらに第2監督として参加していたというではないか。キャメロンが1982年に『殺人魚フライングキラー』で長編映画デビューする以前に関わり、その若き才気をぶつけたのがこの映画だったというわけなのだ。特典映像のインタビュー集には残念ながらキャメロンの姿はないが、それでも当時のスタッフにより「いかにキャメロンが腹が立つほど頑固な野郎で鬼のように完成度にこだわっていたのか」が折に触れて語られている。もちろんこの映画はキャメロンの監督作品ではないが、彼の尽力がどのように功を奏したかは作品のそこここで伺われる。
ただしあくまでこの映画はコーマン製作の映画ということも忘れてはならず、お下劣で俗悪で悪趣味な部分もしっかり盛り込まれている。それも含めて「低予算なりにどれだけ工夫を凝らしたか、面白く見せようとしたか」という部分に目を惹かれる映画でもあるので、単純に痛快SF映画を期待して観られると不満が出る方もいらっしゃるだろうから注意が必要だ。逆に言えばすれっからしの映画ファン、SFマニアにこそ受け入れられる、愛すべきSF映画だということができるはずだ。個人的にはモンスター・デザインがもっと秀逸だったらなあ、と思えたが、ここさえクリアしていれば隠れたSF名作として殿堂入りしていたかもしれない。どちらにしても、カルトな名作であることは間違いない。
なおこの作品は通常の店頭販売並びにAmazonでの販売は行っておりません。購入はこちらで。それと、この作品はナマニクさんの提供で鑑賞することが出来ました。ナマニクさんありがとー。