60年代に行ってもM.I.B.はやっぱりM.I.B.だった!〜映画『メン・イン・ブラック3』

メン・イン・ブラック3 (監督:バリー・ソネンフェルド 2012年アメリカ映画)


メン・イン・ブラック3』を観てきました。3Dじゃなくて通常版のほうね。この『3』、1作目が1997年公開で2作目が2002年公開、それぞれ15年前と10年前ですか。つまり前作から10年空けての3作目、もう続編作らないだろうなあと思っていた、というよりも存在すら忘れていたシリーズなんですが、存在すら忘れるぐらいだから実は印象に薄い、というかそれなりに観てますがそれほど面白かったかどうか…という映画ではあるんですよねえ。
メン・イン・ブラック」ってぇのは、いわゆるUFO絡みの都市伝説で、UFOを目撃した!という人の前に黒スーツにサングラスの黒尽くめで現れて脅迫やら警告やらを与える政府の秘密機関、ということらしいんですね。これで黒い帽子被ってたらブルースブラザースですけどね。映画の『メン・イン・ブラック』は「地球には既に宇宙人が大量に移住してたり旅行しに来てたりしてるんだけど、それをおおやけには知られないように活躍する組織」ってことなんですね。で、映画には地球人の振りした変な宇宙人が沢山現れて、それぞれお店持ったり仕事してたりしていて地球の生活に溶け込んじゃってる、と。しかしその中でワルサする宇宙人もいて、M.I.B.のエージェントはそれを取り締まったりする仕事もしてるんですね。そしてその際に、オーバーテクノロジーな秘密兵器を取り出して使ってみせるのもこの映画のポイントでした。
ただなんかねえ、全体的にユルいギャグばかりダラダラ繰り返されちゃってて、そのギャグもレーティング抑えるせいでしょうか、どっちかっていうとお子様向けで、シモネタとか風刺とかブラックなやつとかは見られなくて、つまんないわけでもないんですがいまひとつピリッとしねえなあ、と思えるんですよ。お話のほうもね、前の2作、劇場で観てDVDも買って観てるのに、思い出そうとしても思いだせないくらい印象の薄いシナリオで、「ウィル・スミスとトミー・リー・ジョーンズが黒服着て銀色の銃持ってドタバタしてたなあ」「マイケル・ジャクソンが宇宙人役で出てたなあ」という事ぐらいしかね、思い出せないんですよ。
しかしね、結局、そういったコメディ要素やストーリーを楽しむ映画なんじゃなくて、宇宙人のバカな造形と破壊のされ方、それとM.I.B.本部や秘密兵器のレトロ・フューチャーしたツルツルピカピカのデザイン、そういうビジュアルを楽しむ映画なんだなあ、とも思うんですよ。なんといってもこの映画シリーズで一番好きなシーンはM.I.B.本部シーンだもんなあ。あとは付け足しみたいなもんだと思っちゃうぐらいだもんなあ。
で、長々と1、2作目の印象を書きましたが、なんでこんだけ長々と書いたかというと、結局この3作目も全く同じ印象の映画だったからなんですよね。もうこれが5作目でも6作目でも全く同じようなもんなんでしょうね。一応今作ではウィル・スミス扮するエージェントJが1960年代の過去にタイムジャンプしてなんちゃらかんちゃらという物語で、トミー・リー・ジョーンズ扮するエージェントKは最初と最後に出てくるだけでタイムスリップした時代の若き日のエージェントKは別の役者であるジョシュ・ブローリンが演じている、ということになっています。それにしてもトミー・リー・ジョーンズ、なんかすっかり生気の無い顔してたけどあれは役作りなのかなあ。
60年代アメリカにタイムジャンプした主人公ですが、アポロ11号の打ち上げなんかも描かれますからこれは1969年ということになりますね。黒人公民憲法が制定されてなおキング牧師が暗殺されたのが1968年ですから、いまだ黒人蔑視の風潮もあった時代に黒人エージェントが現れるという設定は製作者もちょっと考えたようですけれども、そのへんはコメディ映画のせいかサラッと流されていますね(この当時、終盤に現れたような黒人キャリア軍人なんか存在したのかしらん)。ベトナム戦争はまだ続いていましたがこれも題材としてはふさわしくなかったでしょう。むしろ東西冷戦がデタントを迎えた時期でもあったので、その辺を絡めると面白かったかも知れませんが、それだとM.I.B.じゃなくて007になっちゃうか。その代わり登場するのがウォーホールの工房「ファクトリー」ですが、美術に興味のない人はファクトリーとか言われてもピンと来ないかもしれませんね。しかし時代を象徴するものとして選ばれたのがファクトリー、というのもちょっとパンチが足りないような気がします。結局人類初月着陸を果たすアポロを物語のクライマックスに持ってきてアメリカの夢と希望でお気楽SF、というのが『メン・イン・ブラック』という映画の限界なんだろうなあ。