エリザベス:ゴールデン・エイジ (監督:シェカール・カプール 2007年イギリス/フランス映画)

実は1作目である1998年製作の『エリザベス』は未見だった為、DVDを探したが既に廃盤となっており、またレンタル店にはVTRがあったものの我が家のビデオデッキは撤去してあったのでこれも借りられず、結局1作目を観ないままこの映画を観ることとなった。前作はエリザベス1世の誕生から女王即位までの波乱に満ちた人生を描いたようだが、この『ゴールデン・エイジ』では絶対の権力をほしいままにしたエリザベスの”女”としての孤独、探検家ウォルター・ローリーとの淡い情愛、女王が国教としたプロテスタントカトリックとの対立、女王暗殺未遂事件、スコットランド女王メアリー・スチュアートの処刑、そして最大の見せ場であるスペイン・アルマダ艦隊との対決へと物語が語られてゆく。

とまあ固有名詞を並べてみたが、実際のところオレの歴史的知識なんざ微々たるもので、これらの史実は観るまで全く知らず、今も実はパンフレットをカンニングしながら言葉を並べてみただけなのである。そんなオレがなんでこの映画を観ようと思ったかというと、予告編で観た絢爛豪華な衣装の美しさと、主演のケイト・ブランシェットの、凛とした美しさに胸が高鳴ったからだ。そして実際、映画の見所はこの2つであると言ってもいい。エリザベス1世がどれほど衣装に血道をあげたかは史実に示すとおりだが、衣装の豪奢さは他者に威圧感を与え、それを政治的に利用するのは為政者として当然のことだろう。つまり映画を観るものはエリザベスの着る衣装の圧倒的な美しさを見る事により、当時の彼女がいかに権力の高みにあったかを知ることが出来るのだ。

そしてなによりケイト・ブランシェットだ。その美しさは性別さえも超越し、もはや神々しい程である。クライマックスでの銀色に輝く甲冑を身に付け白馬にまたがって民衆を鼓舞する姿の壮麗さといったら…。”美しさは力である”というキャッチコピーがあったような気がするが、ケイト・ブランシェットのそれは、エリザベス1世の権力とそれに臨む意志そのものが生む美しさを画面に表出させたという意味で、女優としての存在感を余すところ無く発揮した名演であると言っていいだろう。そもそもオレはケイト・ブランシェットが映画『ロード・オブ・ザ・リング』で演じたエルフ族の王妃ガラドリエルでも、この人は怖いぐらい綺麗な人だな、と思ったものだが、今回の『ゴールデン・エイジ』を観てその思いが一層強くなった。他の主演作も遡って観てみたくなった。

ただ、映画それ自体は、”女として、人間としてのエリザベス”を描こうとした部分と、史実の悲劇やスペクタクルを描いた部分のバランスがいまいちよろしくない。探険家ウォルター・ローリーとの恋は、砕けた言葉で言うと”史上最高のツンデレ女”といった雰囲気で、これはこれで悪くはないのだが、映画全体としてはフォーカスが甘くなってしまう要素となってしまった。むしろ、こういった私情を全て捨て去った、冷徹無比の鋼鉄の処女として描ききったほうが、逆に女王エリザベス1世の孤独と空虚をその裏から浮かび上がらせる演出となったのではないか。実はもっと陰謀術策が飛び交う暗黒の宮廷劇を期待していた部分もあったので、その辺がちょっと残念かな。ただ、派手な鬘を取りバサバサの短髪と化粧を落とした無表情な青白い顔を露にし、ひとり全ての衣装を脱ぎ捨て裸になるシーンは、「誰でもない自分」に戻りたいエリザベスの悲しみが伝わってきて胸を打った。それと時々みせる凝ったカメラアングルが逆に煩くて、これはちょっといただけなかった。

物語の脇役や背景になっている歴史上の人物達への興味も大いに沸いた。特にエリザベスの寵愛を受け北米の植民地に「ヴァージニア」と名付けた探険家ウォルター・ローリーとはどんな男だったのか。そしてウォルター・ローリーと秘密結婚し、彼が斬首処刑された後その首を防腐処理して持ち続けたというベスとはどんな女だったのか。これだけでもひとつの物語ができあがりそうだ。勿論アルマダ艦隊を派遣し当時世界を掌中に収めんと画策していたスペイン国王フィリペ2世とその王国はどのようなものであったかも、これはこれで壮大な物語が語られるに違いない。『エリザベス:ゴールデン・エイジ』はオレみたいなのが歴史をもっと勉強したくなる1作であったといってもいいかもしれない。

なお、映画館は題材からか”ゴールデンエイジ”なお年寄りが結構お客さんとして来ていた。これがホントの『エリザベス:シルバー・シート』…(すいませんどうもすいません)。

■Elizabeth: The Golden Age Trailer
http://www.youtube.com/watch?v=vITxj7Tq4f4:MOVIE