宇宙創世記ロボットの旅 / スタニスワフ・レム

レムの描く『宇宙創世記ロボットの旅』は宇宙に散らばる様々な惑星の王様や皇帝の無理難題を、さすらいのロボット宙道士トルルとクラパウチェスがあたかもドラえもんのポケットのような摩訶不思議な科学技術と科学知識で解決してゆく、という物語だ。

9編の短篇で構成されているが、SF版御伽噺、宇宙を舞台にした法螺男爵の冒険として読むことが出来るだろう。レムにしては読みやすい上に、ユーモラスな物語とコミカルな登場人物が実に魅力的に描かれている。主人公である宙道士トルルとクラパウチェスの凸凹コンビはどこかスター・ウォーズC3POR2D2さえ髣髴させる。まああの2体よりずっと饒舌で理屈っぽいのだが。

御伽噺であるから現実の宇宙の広さや物理法則は取り合えずうっちゃってあるが、もっともらしい科学用語や数学用語が並べられていて、なぜかきちんとSFぽく読めてしまう。その辺は例えばSF界の大法螺吹き、R・A・ラファティの作品がSFの名を借りた御伽噺であるのとは逆に、レムのこの短篇集は御伽噺の名を借りたSFということになるだろうか。なぜなら、表面では語られない膨大なレムの科学知識と含蓄が、物語の裏側からうっすらと滲み出ているのだ。ガチガチに科学に拘ることなく、自由な想像力で描かれたSF寓話作品としてお薦めできる。レムはもともと、ハードなSFばかりではなく架空の文芸作品の評論などメタ文学的な短篇作品も多く残しており、レムの別の一面を垣間見られるといった意味でも楽しめるのではないだろうか。

物語もバラエティに富んでいる。ちょっと紹介すると:《哲人『弘法大師』の罠》は2軍事大国が覇権を競うある惑星が舞台。それぞれの国で”究極の兵器”を作った宙道士たちの狙いは?《詩人『白楽電』の絶唱》は宇宙一の詩人ロボットを作る話。人工知能に文明を学習させる為にひとつの宇宙を創造する所から始める、なんて突拍子も無い飛躍が楽しい。《獣王『残忍帝』の誘拐》は惑星一の狩猟家である王様に究極の猛獣を作る話。《竜の存在確率論》は怪しげな数学理論の応用で竜を存在させてしまうという大法螺話。《汎極王子の恋路》は恋の病にとりつかれたある王子の為に東奔西走する宙道士二人のドタバタ。《舞踏王の戯れ》はかくれんぼ好きの王様の為に使用した「人格交換機」が巻き起こす大騒動。…などなど。どうです、面白そうじゃありませんか?

宇宙創世記ロボットの旅 (ハヤカワ文庫 SF 203)

宇宙創世記ロボットの旅 (ハヤカワ文庫 SF 203)