新進・ベテランホラー監督による13の恐怖〜《13 thirteen Box.1》(その2)

13 thirteen DVD-BOX VOL.1

13 thirteen DVD-BOX VOL.1

昨日に引き続き《13 thirteen Box.1》のレビューをお送りします。

アイスクリーム殺人事件 (監督:トム・ホランド)

asin:B000X1EF84
ワゴン車に乗ってクラウンの格好をした怪しいアイスクリーム屋が死のアイスクリームを運んでくる!幼い日の忌まわしい思い出、子供の頃からずっと友人だった仲間達、これに死のクラウンが関わってくるとなると、これはどうしたってスティーブン・キングの大長編『IT』を思い出さずにはいられない。アメリカ60年代のサバービア、甘酸っぱい記憶とおぞましい記憶がない交ぜになりながら語られる子供時代、死の腐臭がこびり付いたパステルカラーの憧憬、これらはもうキングの常套句と言っていいぐらいの物語設定だが、実の所このお話の原作はキングとは何の関係も無い。ただなにしろそれだけキング色を感じさせる物語だったことは確かだ。呪いのアイスクリームを食べると、体がカラフルな溶けたアイスとなってグチャッと流れ出す死に方が実に楽しい!そしてクライマックスのゴースト・クラウンとの死闘も、アイスで出来たゴースト・クラウンを水掛けて固まらせたりとか、なんだか意味不明の工夫が盛り込まれていて面白かった。

グッバイベイビー (監督:ジョン・カーペンター)

asin:B000X1EF8E
郊外にある中絶専門病院に担ぎ込まれた一人の少女は、怯えた声で「お腹の子を堕ろして」と懇願する。外には彼女の父親が「妊娠したのは神の子だ。絶対に中絶させない」と医院を脅す…。アメリカではキリスト教原理主義者による堕胎医襲撃事件なんてのが起こってますが、なにしろ監督がジョン・カーペンターなんでイデオロギー的なもんは何も無いと思ってもいいです。ここでカーペンターがやりたかったのは彼の作品『要塞警察』のような、建物に篭城した者と外から襲撃する者との銃撃戦、そして『パラダイム』のような悪魔の子の顕現、さらに『遊星からの物体X』みたいなおぞましいクリーチャーが床を這いずる映像、などなど、これまでカーペンター映画がやってきた事のセルフパロディみたいなお話なんですね。かなり頑張ってはいるんですが、それで結局面白いかと言われると考えちゃうんですが。むしろカーペンターも歳取ったよなあ、と妙な感慨さえ抱いちゃいました。悪役のロン・バールマンがいい味出してます。

ヴァレリーの誘惑 (監督:ミック・ギャリス)

asin:B000X1EF8O
小説家の卵がデビュー作を書く為だけに出版社から提供されたアパートに移り住んだ主人公は、悲しい顔をした少女の亡霊を見るが…?最初はよくあるゴースト・ストーリーなのかと思って観ていたのだが、そこは原作がクライブ・バーカー、一筋縄ではいかない物語に仕上がっていた。美しい少女の亡霊と共に現れる地獄の悪鬼の如きモンスター。これが次々とアパートの住民達を屠ってゆくのだが、この悪魔と美女との対比は何か。これは”美女と野獣”などというものではなく、美女とは即ち創作をするものに閃きを与えるミューズの化身であり、悪魔とはユング精神分析に登場する”創造者のデーモン”即ち”己の想像力に振り回され現実生活を破綻させてしまうまで創作に没頭する事”の化身なのである。つまりこの物語は、創作者が自らの想像力そのものの生贄になってしまうというアレゴリーに満ちた物語なのだ。そして思いも寄らないあのラストは、創作というものに命を捧げた者が辿る皮肉な終焉を視覚化した映像として、実にユニークな出来映えとなっている。ホラーとしては怖くもなんともないが、非常に優れた寓意の込められた作品ということができるだろう。