新進・ベテランホラー監督による13の恐怖〜《13 thirteen Box.1》(その1)

13 thirteen DVD-BOX VOL.1

13 thirteen DVD-BOX VOL.1

新進・ベテランのホラー映画監督がメガホンを取り、全米CATVで放送され好評を博したホラーオムニバス《マスターズ・オブ・ホラー》の2ndシーズンが、《13 thirteen》とタイトル変更されDVDリリースされています。今回も前回同様ジョー・ダンテジョン・カーペンタートビー・フーパーなどホラー映画ファンには御馴染みの名前がクレジットされておりファンには嬉しいですが、それと同時にあまり作品を見る機会の無い新進監督の才能振りを発見するのが楽しいシリーズでもあります。
今回は7作品が収められた《Box.1》のそれぞれのエピソードを3回に渡ってレビューしてみます。なおそれぞれのエピソードはDVD単体でも発売されていますので、興味の沸いた方はお手に取ってみてください。

男が女を殺すとき (監督:ジョー・ダンテ)

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ある日突然世界中で女性ばかりが大量殺戮されるという事件が勃発する。それも男の手によって。アメリカ政府はそれが謎のウィルスの仕業であると確定するが、犯人達は皆「神の声を聴いた」と口々に呟く…。鬼才ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアのSF問題作『ラセンウジバエ解決法』をジョー・ダンテが映像化した、《13 thirteen》において個人的に最も注目をしていた作品。世界中の男が世界中の女を殺してゆく。世界の半分が世界の半分を抹殺しようとする。ただ性が違うというだけで。そこには性差別や女性虐待へのアナロジーがあるのだろうが、あまりに恐ろしい世界の終末である。女性だったらどんな風にこの物語を観るだろう。
さてジョー・ダンテによるこの作品だが、一つの家族を中心にして物語られる脚本構成が原作ファンとして多少違和感があった。愛憎や疑心暗鬼のサスペンスは、確かにお茶の間で観るならウケがいいだろうが、どうしても物語の持つスケールを小さくしてしまったような気がする。原作では人類という一つの種を突き放した目で俯瞰し、昆虫と同質のものとみなす事によって冷え冷えとした恐怖を生んでいたのだが、60分のTVムービーではそれは期待しすぎだったろうか。しかし原作そのもののラストは、やはり甘美なまでに絶望に満ちていた。苦言は呈したものの監督自ら原作の映像化を望んでいたという話で、チョイスそれ自体のセンスの良さは評価できるかもしれない。ってか「地球最後の男」なんてもう映画化しなくていいからこういうSFを映画化してもらいたいもんである。

黒猫 (監督:スチュアート・ゴードン)

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エドガー・アラン・ポーの有名な短篇『黒猫』を題材に、ポー自身を主人公として、彼がどのようにしてこの物語を書くに至ったかを描くメタフィクション。監督のスチュワート・ゴードンは前回《マスターズ・オブ・ホラー》でしょーもない作品を撮っていた上に、『黒猫』という新鮮味の薄い題材で、まるで期待していなかったのだが、蓋を開けてみるとこれが結構よく出来ていた。原作の持つゴシック・テイストをそのまま映像化しただけなのかもしれないが、妙に奇をてらわずストレートに黴臭い時代の暗い物語を描いた部分に潔さを感じたのかもしれない。昔NHKで日曜午後なんかにこんな海外ドラマやってたよなあ、なんて途中まで思っていたぐらいだ。
しかし!安心してボケッと観ていたら中盤からドバドバ鮮血が飛び散り、ラストも思わぬグロさで、いい具合に予想を裏切ってくれるではないか!どれが現実でどれが幻想なのか区別の付かなくなった物語構成もいい。そして緊張感をギリギリ振り絞った後のあのラストもいい。なんだベタ褒めじゃん!いや、別に大傑作というほどでもないんだが、こういうオーソドックスな”幻想と怪奇の物語”もたまににはいいよな。