リーピング (監督:スティーヴン・ホプキンス 2007年アメリカ映画)

ダークキャッスル・エンタテインメントが送るホラー映画『リーピング』である。このCD焼いてくれる?それはリッピング!贈り物用でよろしいでしょうか?それはラッピング!白さがこんなに違います!それはキーピング!以上お約束!
さてホラー映画『リーピング』!イナゴを操る少女!湧きまくるウジ!膨れ上がる腫れ物!…おおおお!なんか凄そうだ!と大いに盛り上がって劇場に足を運びましたが、ううん、ちょっとイマイチな映画だったな。お話はというと旧約聖書出エジプト記に記されている10の災厄がそのままある町に起こる、ってな感じなんだけれど、今時”旧約聖書の災厄”なんて言われてもなあ。だいたい「川が赤く染まる!」「蛙が降る!」「家畜が死ぬ!」「虻が湧く!」「蛆が湧く!」「吹き出物が出来る!」「雹が降る!」とか大騒ぎしてますがどうにも局地的で実際あんまり怖くないんです。町中蛆だらけだ!とかいうんじゃなくてバーベキューの魚から蛆が湧き出すだけだとか、町民皆醜くおぞましい吹き出物だらけになって町をゾンビのように徘徊している!ではなくて教会の2階で5、6人顔にブツブツ出来て倒れているだけだとか。スケールちっちゃいです。単に不衛生で微生物が発生しまくってるだけなんじゃねーのか?と思えてきちゃいます。
でまあ、”出エジプト記”って言うぐらいだからお話のテーマは神と悪魔の戦い!というこれまた古色蒼然とした内容だけど、もはや聖書テーマは出涸らしなんじゃね?大体神とか悪魔とか言ってるよりももっとろくでもなくて恐ろしい事件が起こってるからな、今の世の中。もはや聖書の悪魔なんかよりも現実の人間の方が恐いもの。超常現象よりも唸る電ノコで大量殺戮とか腹にダイナマイト巻いて自爆テロとかのほうが恐怖だもの。そんななのでなんだか古臭い映画だったのであった。クライマックスのイナゴ大襲来と大魔法メテオ状態のVFXは凄かったけどね。大量のイナゴで人が宙にぶっ飛ばされちゃうんですよ?あと鍵となる謎の少女が可愛かったぞ。
ダークキャッスル・エンタテインメントはジョエル・シルバーロバート・ゼメキスが作ったホラー映画専門の製作会社で「TATARI」「ゴーストシップ」「13ゴースト」「ゴシカ」「蝋人形の館」が発表されています。主に60年代ホラーのリメイクが主体なんですが、今回は「ゴシカ」に続くオリジナル・ストーリーということらしい。でもこれまで製作されたホラーはオレ全部見てるんですが、なんだか年々詰まんなくなってくるなあ。監督スティーヴン・ホプキンスは「プレデター2」の監督で、結構期待してただけに残念。予算はそこそこ掛かっていると思うんだけれど、なんだかホラーとしての着眼点が現在の主流とずれているのかな。以前DVDで観たホラーTVシリーズ『マスター・オブ・ホラー』のほうがまだホラーセンスがあったと思う。

■The Reaping Trailer

ホラー観たか!ホラ見たことか!

皆さんにあられましてはウジウジベタベタグチャグチャメソメソグダグダヘロヘロしてる映画ばっかり観すぎなんだ!ウジウジは蛆だけでいい!ベタベタは血糊だけでいい!グチャグチャはハラワタだけでいい!だいたい皆さんにあられましては心だの精神だのを信じすぎ有難がり過ぎなんだ!人間は肉だ!肉体だ!勿論肉体だけが人間じゃないが、ココロとセーシンだけでもないんだ!ココロとセーシンを有難がってばかりの人は自らの肉体の存在を忘れがちだ!ホラー映画は怖い!怖くて痛い!そして怖くて痛いのは生きているからだ!怖くて痛いのは厭だから生きようとする!ホラーとはつまり生存についての映画なんだ!
今の社会では人間そうそう生存の危機なんかには至らないでしょ。死は隠蔽されて希薄になって来るでしょ。そしてそのせいで生の意味もまた希薄になる。ホラーの存在はそれに冷水を浴びせる行為なのだと思う。それと当然デトックスとしての作用もあるしな。毒をもって毒を制するんだよ。元気に生きることも前向きに生きることも実際本当に大切なことなんだが、元気!前向き!と掛け声だけ掛けたって誰も元気にも前向きにもならないんだよ。ホラーは暗く薄汚いものだが、それを観ることで自分の暗くて薄汚い部分を解毒する作用もあるんだよ。
だからなんか事件や犯罪がある度にホラーの存在を糾弾するのは実は逆なんだよな。隠蔽されるものはもっとさらに暗くどろどろとしたものになっていくだけだよ。人間には弱い部分も駄目な部分も暗くて深いダークサイドもある。それも全部ひっくるめて人間で、そういう部分をどうにかしなきゃな、と思うから人は成長する。ホラーとは人の陰画でありダークサイドだ。でもそれを無視したからと言ってダークサイドが無くなる訳ではない。綺麗事だけ並べても社会が綺麗になる訳では決して無いのと一緒だ。と、いつものマスコミのホラー叩きを見ながらオレは思ったのだった。