今年面白かったエレクトロニック・ミュージックやらなにやら

※注:レビューはブログに書いた当時のままで掲載していますので若干現在と異なる記述があります

■Migration / BONOBO

MIGRATION
この[MUSIC]ジャンルの記事(というか単なるメモなんだが)を日記に更新するのは2ヶ月ぶりとなるが、それはひとえに2月を前後して引っ越しをしていたからだった。引っ越し前に申し込んでいたネットが開通したのが結局それから50日後で、音楽情報を全くチェックできなかったのである。そもそも試聴ができないしDL購入もできない。だからほぼ1か月余り、手持ちの音源ばかり聴いていた。そしてその中で、引っ越し間際に購入したBONOBOのこのアルバムを最も聴いていた。BONOBOことサイモン・グリーンは1999年から活躍するエレクトロニック・ミュージック・アーチストで、『Migration』は今年1月にリリースされたニューアルバムだ。実のところBONOBOは以前アルバムを1枚聴いたくらいでそれほど印象に残っていなかったが、この『Migration』は強く心に残る作品だった。「エレクトロニック・ミュージック」という言葉で一括りにできない芳醇な音楽性を兼ね備えているのだ。非常に繊細であり同時に洗練されており、時にメランコリックでありセンチメンタルであるその音は、強烈なアレンジメントとコンポジションの才能が生み出したものであるであることは確かだ。そしてあの2月、あるいは3月、このBONOBOのアルバムを多く聴いていたのは、引っ越しも含めあれこれと疲弊していた自分の心に、これらの音がひんやりとよく沁みたからなのだろう。特にヴォーカル曲『Surface』の美しさと切なさはひとしおだった。とりあえずこれまで今年聴いたアルバムの中では十指に入る名作であることは確実である。 《試聴》

MIGRATION

MIGRATION

 

■Drunk / Thundercat

Drunk
このThundercat、ジャズに暗いオレは全く知らなかったのだが、「新世代ジャズシーンを牽引するロサンゼルスの天才ベーシスト」という人なのらしい。とはいえ、そんな肩書など知らなくても、そしてジャズを殆ど聴かないオレにとっても、このアルバムはとても面白い。一聴して非常に引き締まったジャズ・ファンクのテイストではあるが、なんだかこう、茶目っ気があるサウンドで、そして美しく、さらに楽しい。ジャズ門外漢のオレですら、「これはなんなんだ?」と聴き入ってしまう。傑作。 《試聴》

Drunk

Drunk

 

■The Distance / Gaussian Curve

The Distance
Gaussian Curveはアムステルダムを拠点として活躍するGigi Masin、Jonny Nash、Marco Sterkの3人によるユニットだ。このアルバムは彼らの3年振りとなる2ndアルバムだというが、今までこのユニットのことは知らなかった。分類としてはニューエイジ・サウンドということになるのだそうだが、このアルバムに関してはIDMなテクノとどう違うのか分からない。とはいえ、多分レトロ機材も使用しながら構成したと思われるその音は非常に澄み渡ったアンビエント/チルアウト作品であり、リズムボックスや時折聴こえるギターの旋律の使い方からはかつてのファクトリー・レーベルの鬼才、ドルッティ・コラムを思わせるものすらある。このあたりのしっかりした美しいメロディの存在と楽器音の絶妙な使い方が凡百のアンビエントと違う部分だろう。これはいつまでも聴き続けたい名盤の一つと言ってもいい。 《試聴》

The Distance

The Distance

 

■Silent Stars / Jimpster

SILENT STARS
最近最も繰り返し聴いているのがJimpsterによるこのアルバム、『Silent Stars』。Jimpsterはこのアルバムで初めて知ったアーチストだが、UKのテックハウス・プロデューサーとして20年以上ものキャリアを持っているのらしい。一言でテックハウスと言っても様々ではあるが、個人的には打ち込み主体で機械的に漂白を掛け過ぎたハウスといったイメージもあり、作業用で聴くならまだしもアルバムとして感銘を受け愛聴する程のアーチストはそれほど思い浮かばない。しかし、このアルバムは違った。十分にメロディアスであり、さらにドラマチックでロマンチックでもあるのだ。サンプリングされた個々の音に対する配慮が実に行き届いており、それがシンフォニックに響き渡る様は非常に有機的な音の結合を感じる。R&Bの熱情とジャズのメランコリーも加味されながら、かといって情感の高さのみに振り切れることなく、マシーンミュージックのクールな美しさも兼ね備えている。これはもう非常に知的な音楽構成を練っているからということなのだろう。特に『The Sun Comes Up』では、バレアリックな落ち着きと長閑さから始まりながら、中盤からうねるようなコーラスがインサートされ荘厳に盛り上がってゆく。こういった技巧の数々が堪能できる非常に優れたアルバムなのだ。これは今回の強力プッシュ盤だ。 《試聴》 

SILENT STARS

SILENT STARS

 

 ■Loop-Finding-Jazz-Records / Jan Jelinek

Loop-Finding-Jazz-Records
Jan Jelinekが2001年にリリースした1stアルバムのリイシュー。このアルバムは古いジャズのアナログ・レコードをサンプリングして構築されたものだというが、これが実に素晴らしい。いわゆるジャズ・サンプリングというとヒップホップあたりでは割とお馴染みの手法なのだろうが、このアルバムでは相当なトリートメントを施しているのか、音源がジャズなのにもかかわらず聴こえてくるのはダウンテンポミニマル・テクノであり、さらに言うならこれはダブ・ミュージック化されたジャズという表現もできる。また十分にアンビエント的な味わいもあり、クールダウンにも最適だ。15年以上たっても全く古びていないばかりか今でも十二分に新しい。それにしてもこんなアルバムの存在を今まで知らなかったとは。名作であり名盤なので是非聴いてください。 《試聴》

Loop-Finding-Jazz-Records

Loop-Finding-Jazz-Records

 

■Mulatu Of Ethiopia / Mulatu Astatke

Mulatu of Ethiopia
いつもは殆どエレクトロニック・ミュージックばかり聴いているオレだが、実は最近、部屋でジャズを聴くことも多くなってきた。聴くというよりも、単にBGMとして優れているから鳴らしているだけで、全く造詣はないし、思い入れもないのだが。そんなオレが最近部屋でよく流しているジャズ・ミュージックの一つがMulatu Astatkeによるアルバム『Mulatu Of Ethiopia』、いわゆる「レア・グルーヴ」モノである。Mulatu Astatkeは1943年エチオピア生まれのミュージシャンで、ヴィブラフォン、パーカッションを操る打楽器奏者だ。「エチオ・ジャズ」の生みの親と呼ばれ、現在も現役で活躍中のジャズ親父である。詳しいバイオなどはネットで調べてもらうとして、なぜジャズに疎いオレがよりによってエチオ・ジャズなんかを聴いているのかというと、その独特な音が面白かったというのがある。まず全体的に妙にこってりしている。そしてホーンの音がやはりねちっこく、さらにセクシーだ。音も十分に黒々している。詳しくはないがいわゆるアフロ的な音だということなのかもしれない。オレの知るようなジャズの音がキリッと冷やしてライムを加えたジンのような無駄のない味わいだとすると、このMulatu Astatkeの音はカルーアリキュールにホットコーヒーとホイップクリームを加えたティファナ・コーヒーのような味わいだ。燻されたような甘い匂いが漂っている。しかし全体を見渡すとこれはこれでジャズの音に間違いない。そういった"臭み"の面白さがオレがこのアルバムを気に入った理由である。このアルバムは7曲のステレオ・バージョンに同じ7曲のモノラル・バージョンが同時に収められているが、やはり若干響きが違う。さらに日本版には9曲分のセッションのダウンロードコードが付いていてちょっとお得だ。 《試聴》

Mulatu of Ethiopia

Mulatu of Ethiopia

 

 ■Fabric 94 / Steffi/Various

STEFFI

DJMIXの老舗シリーズ「Fabric」は常にその時々の最新の人気DJを起用し、オレもちょくちょく購入して聴いているが、今回のDJ、Stiffiによる『Fabric94』はこれまでのシリーズの最高傑作なのではないかと思っちゃうほど素晴らしい。基本はテクノ・エレクトロニカなのだが、アルバム全体の統一感が段違いなのだ。アゲ過ぎずサゲ過ぎず、一定のテンションとムードをラストまで淀みなくキープし続け、全15曲のMIXながらあたかもトータル1曲の組曲のように完成している。DJMIXの醍醐味はまさにそこにあるのだが、ここまで高いクオリティを維持しつつMIXしている作品も珍しい。今作は全作新作のエクスクルーシブトラックで構成されているが、調べたところStiffiがあらかじめアルバム全体のイメージを各プロデューサーに伝え、それによりこのトータル感が生まれたのらしい。そしてその「全体のイメージ」となるものがWarpのクラシックCDシリーズ『Artificial Intelligence』だったのだという。おお、『Artificial Intelligence』!フロア向けハードコアテクノのカウンターとして生み出されたIDMの草分けとなったシリーズであり、美しく繊細で静謐で、強力に内省的な作品が数多く並ぶ画期的なシリーズだった。特にオレはカーク・ディジョージオの各名義の作品の多くに心奪われていた忘れられないシリーズである。この『Fabric94』はその正統な血筋を持ったアルバムであり、『Artificial Intelligence』のハート&ソウルを現代に蘇らそうとした傑作なのだ。個人的には今年リリースされたエレクトロニック・ミュージック・アルバムの中でもベスト中のベストと言っても過言ではない名盤の誕生だと思う。 《試聴》

STEFFI

STEFFI

 

■ De-Lite Dance Delights / DJ Spinna/Various

DE-LITE DANCE DELIGHTS (日本独自企画)

クール&ギャングを見出したことでも知られる70~80年代の名門ファンク/ディスコ・レーベルDe-Liteの珠玉作をNYで活躍するDJ SpinnaがMix!いやなにしろディスコなんだけれども、これがもう一周回って素晴らしい!伸びやかなヴォーカル、カリッとクリスプなギター、エモーショナルなストリングス&ホーン、キャッチ―なメロディ、ファンキーなリズムはひたすら歯切れよく、そしてどことなくお茶目。どれもこれも音のクオリティが非常に高い。この心地よさはまさに極上。いやあ、ディスコ、侮りがたし!今回の強力お勧め盤。《試聴》

DE-LITE DANCE DELIGHTS (日本独自企画)

DE-LITE DANCE DELIGHTS (日本独自企画)

 

■Late Night Tales / Badbadnotgood/Various

Late Night Tales - BADBADNOTGOOD - [輸入盤CD / アンミックス音源DLコード] (ALNCD46)_475

様々なアーティストがダウンテンポ曲中心のMIXをアルバムにまとめた人気シリーズ「Late Night Tales」の最新作キュレーターはヒップホップ・ジャズ・ファンク・カルテットBadbadnotgood。というかこの「Late Night Tales」ってシリーズもBadbadnotgood自体も全く知らなかったんだけど、いいわ、これ。サイコーに和むわ。よくもまあここまで和みまくる曲ばかり集めたものだなあ。これも今回の大プッシュお勧め盤。 《試聴》

Late Night Tales - BADBADNOTGOOD - [帯解説 / アンミックス音源DLコード / 国内仕様輸入盤CD] (BRALN46)

Late Night Tales - BADBADNOTGOOD - [帯解説 / アンミックス音源DLコード / 国内仕様輸入盤CD] (BRALN46)

  • アーティスト: BADBADNOTGOOD,バッドバッドノットグッド
  • 出版社/メーカー: Beat Records / Late Night Tales
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

■New Energy / Four Tet

New Energy

エレクトロニカ・ファンなら人気実力共に誰もが認めるFour Tetだが、オレも嫌いではないにもかかわらずどうも「Four Tetの音」というものをすぐイメージできないでいる。いやそりゃあ変幻自在だからといえばそれまでだが、というよりも所謂"エレクトロニカ"な音からこの人の音というのはスルッとすり抜けているからなのかなあ、という気がしないでもない。そのデビューがポスト・ロック・バンドであったり、ジャズや第3世界の音に接近したりフォークトロニカの第一人者と目されたり、こうして並べてみても確かにエレクトロニカの中心にいるわけではない人なのだが、中心にいないからこそ見えるエレクトロニカの音をこの人は作り続けているのかなあ、などとなんとなく思いつきで言ってみたりする。Four Tetのニューアルバム『New Energy』ではアンビエントダウンテンポな曲とミディアムテンポの曲とが半々で、最初に聴いた時はやはりどうもトータルなアルバムイメージがすぐ湧かなかったのだが、聴き続けてみると、ああこれはそれぞれが違うスケッチやリリックのようなもので、DJMix聴いてるみたいに「トータルイメージがー」とか言って聴くべきじゃなかったんだな、と気づかされた。そして1曲1曲に注視しながら聴き、その差異と共通項を見出すことで、Four Tetの全体像がふわっと浮かんでくるのがこのアルバムなのかな、とも思った。こうしてそれぞれの曲の輪郭を把握してみると、いややはり単純に、よく出来たいいアルバムですねこれは。非常に内省的な作品集であり、一つ一つの音をきわめて注意深く扱うことによってとても繊細な構造の音として完成している。それは効果的に使用されたアコースティック音に顕著だろう。抑制されつつもやはりエモーショナルなのだ。そしてこの人の音は、なんだか優しいな、という気がする。  《試聴》

New Energy

New Energy

 

■Glass / Aparde 

Glass

”最近聴いたエレクトロニック・ミュージック”の覚書をブログにぽつぽつ更新しているが、全体的に見渡してみるとオレがよく聴くのは静かで綺麗目、あるいはメランコリックで、ダウンテンポ気味の音が多いなあという気がする。いわゆるリスニング向けというのになるのか。フロア向けの音も聴くけれども、割合としては多くない。多分エレクトロニック・ミュージックに興奮ではなくリラックスやリフレッシュを求めているんだろう。まあオレも結構なジジイなので、和みたい・寛ぎたいってことなんですな。いや、いろいろ疲れてるんですよ……。そんな癒されたいジジイであるオレが最近外で・あるいは部屋でよく聴いているのがドイツのApradeによるこの1stアルバム『Glass』。緩やかなダウンビートに浮遊感たっぷりのシンセと抒情的なピアノが被さり、とても元気の無い切なげな歌声で全体を〆る、という実にオレ仕様のリスニング向けアルバムとなっている。ホラー映画の1場面みたいなジャケットも鬱っぽくていい。というか、オレはこのぐらいの静かでささやかな音が最も好きなんだろうと思う。あんまりささやか過ぎて聴きはじめたと思ったらいつの間にか終わっている。強い主張が無い音とも言えるが、だからこそふわふわと空気中に漂わせておける。そんな部分が心安らぐ。いや、いろいろ疲れてるんですよ……。 《試聴》

Glass

Glass

 

■Ambient Black Magic / Rainforest Spiritual Enslavement

Ambient Black Magic

ああ、雨だ。雨が降っている。Rainforest Spiritual Enslavementのアルバム『Ambient Black Magic』は、どこまでも、ひたすら、雨が降りしきっている。CD2枚組のこのアルバムのCD1は34分に渡るアンビエント・ダブ・テクノ『Jungle Is A Shapeshifter』1曲のみが収録されているが、幽玄なドローン/ダブ音響の背後で、しとど降る雨の音が34分のほぼ全編に渡り延々と鳴り止むことなく響き続けているのだ。「熱帯雨林の精神的な奴隷化」といユニット名、そして黒々とした木の枝の陰に身を潜める大蛇が描かれたアルバム・ジャケット、これらからも、人気のない鬱蒼としたジャングルにどこまでも降りしきる雨、といったイメージが補強され、さらにその音は低音がドロドロと響き渡り続けるドローン/ダブであり、それらから、得体の知れない秘境に入り込んでしまったかのような錯覚すら憶えさせる音となっているのだ。そしてその音を聴くにつれ、自分がたった一人緑の魔境に取り残されたかのような不安感を感じるのと同時に、数多の生命が息吹く大自然に包まれそれと一体化したような安心感、といったアンビバレントな感覚に捕らわれる。こういった感情を呼び覚ます音の没入感が非常に優れた作品なのだ。そしてCD2の1曲目『Beyond The Yellow-Spotted Bamboo』ではさらに17分間に渡り激しい雨に包まれることとなるのだ。《試聴》

Ambient Black Magic

Ambient Black Magic

  • アーティスト: Rainforest Spiritual Enslavement
  • 出版社/メーカー: Hospital Productions
  • 発売日: 2017/10/13
  • メディア: MP3 ダウンロード
  • この商品を含むブログを見る
 

 

 

最近聴いたエレクトロニック・ミュージック

■Glass / Aparde 

Glass

”最近聴いたエレクトロニック・ミュージック”の覚書をブログにぽつぽつ更新しているが、全体的に見渡してみるとオレがよく聴くのは静かで綺麗目、あるいはメランコリックで、ダウンテンポ気味の音が多いなあという気がする。いわゆるリスニング向けというのになるのか。フロア向けの音も聴くけれども、割合としては多くない。多分エレクトロニック・ミュージックに興奮ではなくリラックスやリフレッシュを求めているんだろう。まあオレも結構なジジイなので、和みたい・寛ぎたいってことなんですな。いや、いろいろ疲れてるんですよ……。

そんな癒されたいジジイであるオレが最近外で・あるいは部屋でよく聴いているのがドイツのApradeによるこの1stアルバム『Glass』。緩やかなダウンビートに浮遊感たっぷりのシンセと抒情的なピアノが被さり、とても元気の無い切なげな歌声で全体を〆る、という実にオレ仕様のリスニング向けアルバムとなっている。ホラー映画の1場面みたいなジャケットも鬱っぽくていい。というか、オレはこのぐらいの静かでささやかな音が最も好きなんだろうと思う。あんまりささやか過ぎて聴きはじめたと思ったらいつの間にか終わっている。強い主張が無い音とも言えるが、だからこそふわふわと空気中に漂わせておける。そんな部分が心安らぐ。いや、いろいろ疲れてるんですよ……。 《試聴》

Glass

Glass

 

■Ambient Black Magic / Rainforest Spiritual Enslavement

Ambient Black Magic

ああ、雨だ。雨が降っている。Rainforest Spiritual Enslavementのアルバム『Ambient Black Magic』は、どこまでも、ひたすら、雨が降りしきっている。CD2枚組のこのアルバムのCD1は34分に渡るアンビエント・ダブ・テクノ『Jungle Is A Shapeshifter』1曲のみ。この曲の中心となる幽玄なドローン/ダブ音響の背後で、しとど降る雨の音が34分のほぼ全編に渡り延々と鳴り止むことなく響き続けているのだ。「熱帯雨林の精神的な奴隷化」というユニット名、黒々とした木の枝の陰に身を潜める大蛇が描かれたアルバム・ジャケット、これらからも、人気のない鬱蒼としたジャングルにどこまでも降りしきる雨、といったイメージが補強され、さらにその音は低音がドロドロと響き渡り続けるドローン/ダブであり、それらから、得体の知れない秘境に入り込んでしまったかのような錯覚すら憶えさせる音となっているのだ。そしてその音を聴くにつれ、自分がたった一人緑の魔境に取り残されたかのような不安感を感じるのと同時に、数多の生命が息吹く大自然に包まれそれと一体化したような安心感、といったアンビバレントな感覚に捕らわれる。こういった感情を呼び覚ます音の没入感が非常に優れた作品なのだ。そしてCD2の1曲目『Beyond The Yellow-Spotted Bamboo』ではさらに17分間に渡り激しい雨に包まれることとなるのだ。《試聴》

Ambient Black Magic

Ambient Black Magic

  • アーティスト: Rainforest Spiritual Enslavement
  • 出版社/メーカー: Hospital Productions
  • 発売日: 2017/10/13
  • メディア: MP3 ダウンロード
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■A so We Gwarn / Dego & Kaidi

ソー・ウィー・グワン (SO WE GWARN)

ソー・ウィー・グワン (SO WE GWARN)

  • アーティスト: ディーゴ・アンド・カイディ,DEGO & KAIDI
  • 出版社/メーカー: MUSIC 4 YOUR LEGS IMPORT / SOUND SIGNATURE
  • 発売日: 2017/10/25
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

Theo Parrishのレーベルからリリースされた4HEROのDEGOと相棒KAIDIによるアルバム。ジャズ、ソウル、ハウス、ヒップホップ、アフロミュージックといったジャンルを横断しながらグルーヴ感たっぷりのクラブ・ミュージックを展開する。どの曲もクオリティが高くブラック・ミュージック・ファンにもお勧めできる。 《試聴》 

■SKRS Prince Blimey Dub Reconstruction / Red Snapper

SKRS Prince Blimey Dub Reconstruction

SKRS Prince Blimey Dub Reconstruction

 

変態エクスペリエンス・ダブ・ミキサーSeekers Internationalが人力アブストラクト・バンド Red Snapperの『Prince Blimey』をひたすらバイオレントにミックス。全2曲のミニ・アルバムだがどちらの曲も18分前後、トータル36分間に渡りカオティックでエクスペリメンタルなジャズ・ファンクが鳴り響きまくる! 《試聴》 

■Bafana Bafana / Professor Rhythm

Bafana Bafana

Bafana Bafana

 

南アフリカのミュージシャンProfessor Rhythmが95年にカセットでリリースしたレア音源のリイシュー。アフリカーンな陽気さで演奏されるチープながらどこか味わいの深いシンセ・ポップだが、そこここにユーロ・ニューウェーヴの匂いがするのが面白い。 《試聴》

■All About / Bert H

All About

All About

 

 ドラムンベースには一時物凄くはまった時期があって、あれはLTJ Bukemがブレイクした頃だったと思うが、当時はもう、他のエレクトロニック・ミュージックなんかまるで聴かずにD&Bばかりひたすら聴いていたのだ。それもいつしか熱が冷め、今度はまるで聴かないばかりか、あの性急なリズムがうとましくすら思うようになってしまったのだから人間勝手なものである。このアルバム『All About』はモスクワ在住の新人D&Bプロデューサー、Bert Hによる1stアルバムだが、これは久々に気に入った。なによりロマンチックなメロディがいい。そもそもD&Bはその独特のリズムと併せメロディのロマンチックさ、そしてスペイシーな音の広がりが気に入っていたのだが、Bert HはUKで始まったこのジャンルを遠く離れた東欧から強烈な愛情でもって自らのものにしたのだろう。数多あるD&Bサウンドと何がどう違うのかは上手く説明できないが、D&Bの現場から離れている者だからこそこだわることのできるD&Bらしさがここにある。 《試聴》

■Reworked By Detroiters / Funkadelic

Reworked By Detroiters

Reworked By Detroiters

 

伝説のファンク・バンド、ファンカデリックの名曲の数々をMoodymannUnderground ResistanceClaude Youngデトロイト・テクノ/ハウスの精鋭DJがこぞってリミックスした2枚組。オレはファンカデリック自体はさらっと聞き流した程度なのでどの位音が変わったのか判断できないが、 テクノ/ハウス寄りのミックスというよりはファンカデリックに敬意を表したファンクの持ち味を崩さないミックスになってるんではないかと思う。 《試聴》 

■Fabric 95: Roman Flugel / Roman Flugel/V.A.

Fabric 95: Roman Flugel

Fabric 95: Roman Flugel

 

 DJMixシリーズの老舗Fabricの95番はドイツ出身のベテランアーティストRoman Flugelが手掛ける全22曲のミニマル/ディープ・ハウス・ミックス。 《試聴》

■NOMC15 / New Order

NOMC15 [帯解説・歌詞対訳 / 国内盤 / 2CD] (TRCP224/225)

NOMC15 [帯解説・歌詞対訳 / 国内盤 / 2CD] (TRCP224/225)

 

ニューオーダーが2015年11月にイギリス・ブリクストン・アカデミーで行ったコンサートの模様を収録したライブ・アルバム2枚組全18曲。最新アルバム『ミュージック・コンプリート』からの曲を中心に数々の名曲・代表曲を披露、もちろんジョイ・ディビジョンのあの曲も炸裂します。全体的に淡々とした印象。 

Blade Runner 2049 (Original Motion Picture Soundtrack) / Hans Zimmer & Benjamin Wallfisch

Blade Runner 2049 (Original Motion Picture Soundtrack)

Blade Runner 2049 (Original Motion Picture Soundtrack)

 

映画『ブレードランナー2049』のサントラ2枚組。ドロドロと響き渡るハンス・ジマーのインダストリアル・ドローン・ミュージックが圧巻だが、同時に映画で使用されたフランク・シナトラエルビス・プレスリーの曲も収録されていて、未来と過去が同居した奇妙なアンバランス感が面白い。

夜明け前の漆黒の暗闇~映画『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』

スター・ウォーズ/最後のジェダイ (監督:ライアン・ジョンソン 2017年アメリカ映画)

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『スター・ウォーズ』サーガがジョージ・ルーカスの手を離れディズニー資本の下10年振りに製作された新3部作第1弾『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』がオレはまるで好きになれなかった。なんかこう、「ほらほら、『SW』ファンの君たちってこんなのが好きなんだよね?」と媚を売りまくったような、何一つ新しい部分の無い迎合の仕方に溜まらなくうんざりさせられたのだ。

当時書いたレビューでは「まあ紆余曲折あった後に満を持して作られた失敗の許されないプロジェクトだからこんな無難なだけの映画になったんだろうな」的なことを書いたが、実のところ、オレの中では、『スター・ウォーズ』は、既に、終わっていた。

だから『フォースの覚醒』の続編でありエピソード8にあたるSW新作『最後のジェダイ』が公開されると知ったときもまるで盛り上がらなかった。とはいえ、ブログのネタ程度に一応観ておこうとチケットを取ったが、IMAXなんかはいらねえな、と思い通常の2D字幕版で観てみることにしたのだ。

ところがだ。映画が始まりいきなり死と破壊に満ち溢れた熾烈な宇宙戦が展開しだしたとき、オレはすっかり物語に、SWの世界に飲み込まれてしまったのだ。「ああああああ!すげえ!すげえ!これだ!この興奮だ!オレはSWでこれを観たかったんだ!!」

その後の物語の詳細をここで書くことはしない。けれども、映画が終わった後、オレは素晴らしい充実感に包まれていた。

実のところ、オレはルークやらレイアやら、旧作からのキャラクターのその後になんのノスタルジーも覚えない。さらにレイやレンやフィンといった新作主要キャラの動向にもさほど興味を感じていない。ついでに言ってしまえば、フォースやジェダイがどうとかいうお話も、どうでもいいと思っている。しかしだ。「遠い昔、はるか彼方の銀河系で」行われていた、宇宙を二分する強力な善と悪との戦いの物語として、この『最後のジェダイ』は、圧倒的な興奮に満ちていたのだ。

その物語は、その戦いは、情け容赦なく、徹底的だ。その情け容赦のなさは、外伝として製作された、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』に通じるものがある。映画『最後のジェダイ』は、『ローグ・ワン』の如き、戦争の虚無と残酷さと、劣勢に置かれた者たちの絶望感と、その中で閃光のように輝き渡るヒロイズムがある。ここには、エピソード1~7で描かれた、所謂"宇宙冒険ファンタジー"の甘やかさは稀薄だ。映画の色調はどこまでも暗く鈍く、陽光の中で行われるシーンすら死の匂いが充満する。そしてこの熾烈さは、実は結構現代的な世相すら反映しているような気すらする。

しかし砂を噛むような寂寞感に満ちた『ローグ・ワン』とこの『最後のジェダイ』の物語を分けるのは、そこにフォースという名のパワーを秘めたヒーローたちが存在するということだ。即ち、どんなに過酷であろうと、熾烈であろうと、そこには必ず全てを救う筈の【希望】があり、【救済者】がいる、ということなのだ。その【救済】を、その【奇跡】を、ひたすら【信じる】ことで、絶望的でしかない状況を、石に齧りついてでも打破しようとするのがこの物語なのだ。

『最後のジェダイ』はその中で、ジェダイという名の【救世主】の喪われた世界と、そのジェダイを新たに継ぐべき者が生まれようとする過渡的な状況を描く作品だ。それは【救済】と【希望】がまだ手探りでしかない状況なのだ。だからこそ否応なく物語は熾烈であり過酷なのだ。それは、夜明け前の漆黒の暗闇を描く作品だからなのだ。

そしてこの状況は、『最後のジェダイ』を新3部作の中盤の在り方として最も正しく、最も正統的なドラマとして成立させているのだ。善が悪の中に今まさに飲み込まれようという混沌と混乱の渦中にありながらも、【新たなる希望】を模索して止まない物語、これこそがスター・ウォーズではないか。こうして『最後のジェダイ』は、新3部作の中盤にありながらスター・ウォーズ・サーガの新たなる傑作として堂々と完成したのである。ああああああ!観てよかったなあああああ!!!


「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」本予告

 

今年観て面白かったインド映画あれこれ

今年劇場やソフトで観たインド映画の中で面白かった作品をピックアップしてみたいと思います。とはいえ、今年の前半は引っ越しとその後の整理に忙しくてまっっったくインド映画観てませんでした!そもそもハリウッド映画すらまともに見てなかったんですけどね。

そんな中なんとなく並べてみると、インド映画上映会で観た映画がやっぱり記憶に強く残ってるんですよね。どんな映画もそうなんですが、やっぱりインド映画も劇場でちゃんと観なきゃ面白さが伝わんないって事でしょうか。というわけでもっと上映会増やして欲しい……と思いつつ毎週やられたらそれはそれで大変……。

とまあどうでもいいことをグダグダ書きつつ行ってみることにしましょう。

■ジャブ・ハリー・メット・セジャル (監督:イムティヤーズ・アリー 2017年インド映画)

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インド映画から半年以上離れていて、「オレももうインド映画リタイアかなあ」と思っていた矢先に公開されたこの作品、シャールク&アヌーシュカのコンビがオレに再びインド映画の魅力を気付かせてくれた素敵なラブロマンス作品でした!

■マーヤー / MAYA (監督:アシュウィン・サラヴァナン)
■今日・昨日・明日 / INDRU NETRU NAALAI (監督:R・ラヴィ・クマール)
■デモンテの館 / DEMONTE COLONY (監督: R・アジャイ・ガーナームットゥ)
■キケンな誘拐 / SOODHU KAVVUM (監督:ナラン・クマラサーミ)

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9月後半にキネカ大森で開催された「インディアン・シネマ・ウィーク」の4本です。どの作品もタミル語映画だったんですが、ホラー、SF、クライムコメディと盛り沢山のジャンルで、どれか1作だけを選ぼうなんて気にならないほどどれも楽しい作品ばかりでした!ちなみに上の写真は映画『昨日・今日・明日』のものです。ICWまたやってくれないかなあ!

■M.S.ドーニー ~語られざる物語~ [原題:M.S. Dhoni: The Untold Story] (監督:ニーラジ・パーンデー 2016年インド映画)

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こちらは『IFFJ2017』で公開された1作。本国では大ヒットしたものの、「現役クリケットスターの自伝」なんていうテーマに興味が無くてスルーしようかと思ってたのに、これがなんと!観てみると実に正攻法に丹念に作られたドラマで見所満載!長尺のインド映画を字幕付きで観られた、というのも大きいですね。来年のIFFJにも期待です!

■Mersal (監督 : アトリー 2017年インド映画)

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南インドのお祭り映画!いや別にお祭りがテーマって訳じゃないんですけど、あたかもお祭りの如く終始ド派手にパワフルに展開するその物語は映画を観るというよりも巨大な祝祭空間に放り込まれそこに参加しているかのような高揚感に満ち溢れていて、インド人観客で満席になった劇場の熱気までもがひとつの体験として記憶に残ってしまうような圧倒的な作品でした。

■Golmaal Again (監督:ローヒト・シェッティ 2017年インド映画)

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今年前半殆どインド映画を観ていなかったもうひとつの理由は、去年公開されたボリウッド映画の作品傾向が実録モノや国策モノばかりでうんざりしていたのもあったんですよ。ところがこの『Golmaal Again』は徹頭徹尾娯楽に徹した大バカ映画で、ボリウッド映画の楽しさが帰ってきた!と思わせてくれたターニングポイント的な良作でしたね!

■Spyder (監督:A.R.ムルガードース 2017年インド映画)

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ボリウッド作品に収穫が無かった分、テルグ・タミル映画はどれも充実していましたね。この作品もテルグ映画なんですが、奇想天外で荒唐無稽なストーリーを強力な力技で捻じ伏せて展開するその手腕はやはりテルグ映画ならではと感じさせてくれました。

■Dangal (監督:ニテーシュ・ティワーリー 2016年インド映画)

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ボリウッド映画史における歴代興行成績を塗り替え、なおかつ世界各国で大ヒットを飛ばしたというバケモノみたいなインド映画です。テーマは「頑固オヤジが主演のスポコン物語」なんですが、もう冒頭からグイグイに引き寄せられる強烈なドラマツルギーを成しており、いやこれ大ヒットも分かるわ、と舌を巻いてしまうような凄まじく面白い作品でした。そしてこの作品、なんと来年、いよいよ日本で公開されますので是非ご覧になってください!!スゴイよ!

■Munna Michael (監督:サッビール・カーン 2017年インド映画)

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 もうね、オレはタイガー・シュロフが大好きなんですよ。こいつの映画なら何でも許しちゃいますよ。今作はタイガーがシックスパックの腹筋と冴えわたったアクションとキレッキレのダンスを見せつけるという超絶娯楽作で、「これがインド映画だッ!」と嬉し涙に咽んじゃいそうな、文字通り頭空っぽにして観られるひたすら楽しいインド映画作品です!メッチャ楽しいからみんなもインド映画観ようよ!

■Hindi Medium (監督:サーケート・チョウドゥリー 2017年インド映画)

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インドのお受験戦争を描いたコメディなんですが、そういったインド社会の実情をテーマにしつつ同時にインドに暮らす様々な人々の生活を垣間見せている、という点にとても魅力を感じた作品なんですよ。それと併せ、なにしろ主演のイルファーン・カーンの大ボケ演技がひたすら楽しいんです!なんだか安心できるんですよね。というか、インド映画って、ハリウッド映画観ている時よりも全然安心感を感じるんですよ。

■Toilet: Ek Prem Katha (監督:シュリー・ナーラーヤン・シン 2017年インド映画)

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インドのトイレ事情をテーマにしたコメディなんですが、そういった「大っぴらにしたり大声で論じるにはちょっと恥ずかしいし気が引けちゃう」 テーマを堂々と、さらに決して下品になる事なくコメディ作品として完成させ、なおかつクライマックスに大感動大会まで持ってきてしまうなんていうシナリオの秀逸さに唸らされました。

 

オレの部屋にジャスティスなリーグの皆さんがやってきたッ!!

き、来たんですよ、オレんちに、あのジャスティスなリーグの皆様がッ!!

そう、ワンダーウーマン様、バットマン様、スーパーマン様がお揃いになってオレの部屋にやってきてくださったのですよッ!?

バーンッ!!!

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そう!ジャスティスなリーグの皆様のフィギュアがやってきたんですッ!!

それではそれぞれの方にズームアップしてみましょう。

まずはワンダーウーマン様。

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うおおおお!お美しいいいいい!!!!

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そしてバットマン様。

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うおおおおおお!意外とブッといいい!!

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最後にスーパーマン様!!

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うおおおおお!思ったよりスーツカッコイイ!!!!

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いやあ、いいっすねえ!

ちなみにフラッシュ様、アクアマン様、サイボーグ様は予算の都合で来れないようであります……。いや、いつかきっと……(涙。