オレ的映画オールタイムベストテン2017!!!

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◆オレ的映画オールタイムベストテン2017!!!

というわけでブログ『男の魂に火をつけろ!』で企画している『映画オールタイムベストテン:2017』に参加させていただきたいと思います。早速ですが1位はいきなりあの映画!?

《オレ的映画オールタイムベストテン2017》

1.ブレードランナー 2049 (2017年、監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

2.マッドマックス 怒りのデス・ロード (2015年、監督:ジョージ・ミラー

3.銃弾の饗宴‐ラームとリーラ (2013年、監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー)

4.アンダーグラウンド (1995年、監督:エミール・クストリッツァ

5.ホーリー・マウンテン(1973年、監督:アレハンドロ・ホドロフスキー

6.エル・トポ (1969年、監督:アレハンドロ・ホドロフスキー

7.ダークナイト (2008年、監督:クリストファー・ノーラン

8.PK ピーケイ (2014年、監督:ラージクマール・ヒラーニー)

9.イングロリアス・バスターズ (2009年、監督:クエンティン・タランティーノ

10.ラガーン (2001年、監督:アシュトーシュ・ゴーワリケール)

◆今から振り返るオレの10年前のベストテン

ところで『映画オールタイムベストテン:2017』ってナニ?という方もいらっしゃるかと思いますのでざっくり紹介を。

上記リンクにも書かれていますが、ブログ主催のワッシュさんは「映画ベストテン」企画を様々なお題を元に2007年からやられているんですね。このオレもしょっちゅう参加させていただいておりました。

その最初である2007年が「映画オールタイムベストテン」だったんですが、10年前、オレがこの企画に参加したときの「映画オールタイムベストテン」がこんな感じでした。

《オレの2007年当時の映画オールタイムベストテン》

1位:地球に落ちてきた男(監督:ニコラス・ローグ 1976年イギリス映画)
2位:ブレードランナー(監督:リドリー・スコット 1982年アメリカ映画)
3位:タクシードライバー(監督:マーティン・スコセッシ 1976年アメリカ映画)
4位:ビデオドローム(監督:デヴィッド・クローネンバーグ 1983年カナダ映画
5位:マッドマックス2(監督:ジョージ・ミラー監督 1981年オーストラリア映画)
6位:ファイトクラブ(監督:デヴィッド・フィンチャー 1999年アメリカ映画)
7位:遊星からの物体X(監督:ジョン・カーペンター 1982年アメリカ映画)
8位:ファントム・オブ・パラダイス(監督:ブライアン・デ・パルマ 1974年アメリカ映画)
9位:パルプ・フィクション(監督:クエンティン・タランティーノ 1994年アメリカ映画)
10位:新世紀エヴァンゲリオン 劇場版 Air/まごころを、君に(監督:庵野秀明 1997年日本映画)

で、自分のこのときの記事を眺め渡しながら「オールタイムとは言いつつ、このベストテンは今の気分にはちょっとそぐわないな」と思ったんですよ。

10年といやあ結構な年月で、オレも46歳のオッサンから56歳のクソジジイに成り果てており、そしてその間それなりに考え方や感じ方が変わったり、単に老化してボケが進行したりしており、10年前にベストに思えたものが、今はあまり魅力を感じなくなってきているんです。そしてその10年の間には、それなりに沢山の映画を観ており、その中には、かつてのベストテンを超える作品も幾つもあるんですよ。

それと、2007年のベストテンは、オレの青年期のベストテンなんだな、と思うんです。まあ、いってみりゃあセーシュンです。そのセーシュンの時期に観た『タクシードライバー』には非常に生々しい衝撃を受けましたが、56歳になってみると、今のオレはもう『タクシードライバー』じゃないなあ、と強く感じるんですよ。

そんなことを考えながらオレの今の気分でベストテンを並べてみたら、21世紀になってから公開されたか、あるいはオレが21世紀になってから初めて観た旧作ばかりになりました。

◆「オレ的映画オールタイムベストテン2017」の一口コメント

1.ブレードランナー 2049 (2017年、監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

BLADE RUNNER 2049 (SOUNDTRACK) [2CD]

BLADE RUNNER 2049 (SOUNDTRACK) [2CD]

 

「オレ的オールタイムベストテン2017」堂々の第一位はなんとついこの間公開された『ブレードランナー2049』!当然今年観た映画のナンバーワン!賛否両論あるようだがオレがこの作品を愛して止まないのは、自分にとって「世界が一個本当にそこにあった」と感じたこと、これに尽きる。没入感が物凄かった。2049年の架空の未来世界なのもかかわず、さっきまでこの世界に住んでいたようにすら感じた。その中でオレは主要人物でもなんでもないけど雑踏をうろついているどこかのおっさんの一人だった。オレは、この映画を観返せば、いつでもまたあそこに帰れるのだとすら思った。なにか、魂的なものにより、強烈な吸引性を感じるのだ。そしてこの作品は『ブレードランナー』1作目を包含しているという意味で1作目『ブレードランナー』もまたオールタイムベストテンである、ということができる作品だ。2.マッドマックス 怒りのデス・ロード (2015年、監督:ジョージ・ミラー

人の人生には節目というものがあり転換期というものがある。それまでの自分から脱却してもう一回り大きな、または新たな自分になるという時期のことだ。映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は数十年続いたいち映画ファンの"映画体験"を別物に変えてしまうような、”映画的事件”だったのだと思う。オレは未だにあの荒野が忘れられない。男たちの咆哮と女たちの叫びが忘れられない。この映画からは映像や音響だけではなく臭いや温度や湿度までが滲み出していた。映画を超えてひとつの"体験"にまで高められた畢竟の名作に間違いない。

3.銃弾の饗宴‐ラームとリーラ (2013年、監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー)

オレのこれまでの映画体験を根こそぎひっくり返し、全く別の地平へと向かわせたもの、それはインド映画との出会いである。そしてその決定的かつ衝撃的な映画作品がこの『銃弾の饗宴‐ラームとリーラ』だ。美術、音楽、風俗、文化、なにもかもが別次元だった。それは、それまで見知っていた欧米文化としての映画作品とは全く別個の、それまで全く知らなかった異質な文化との激突事故だった。この作品に衝撃を受けてから様々なインド映画を観て、この作品よりも完成度の高いであろう作品にも幾つか出会いはしたけれども、それでも、決して忘れられない出発点だったインド映画こそがまさにこの作品なのだ。

4.アンダーグラウンド (1995年、監督:エミール・クストリッツァ

アンダーグラウンド Blu-ray

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ここ10年で、作品それ自体のみならずそもそもの監督の作風に魅せられたのが誰あろうエミール・クストリッツァだ。クストリッツァの作品において登場人物たちは調子っぱずれな狂騒の中夢とも幻ともつかない非現実の世界へと滲み出す。それは悲惨でさもしい現実からの逃避なのか、それとも新たに獲得したもう一つの現実なのか。そのどちらであろうと、現実の皮一枚向こうにあるその世界に、クストリッツァは剥き出しの喜びと悲しみを映し出そうとする。そのクストリッツァの映画『アンダーグラウンド』は、祖国亡失という絶望の中で作り上げられた、あたかも怒りの神話とも言える壮絶な名作なのだ。

5.ホーリー・マウンテン(1973年、監督:アレハンドロ・ホドロフスキー 

ホーリー・マウンテン HDリマスター版 [Blu-ray]

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オレの敬愛する映画監督はここ10年で出会った二人の監督、一人がエミール・クストリッツァであり、もうひとりがこのアレハンドロ・ホドロフスキーである。この二人は、もはや唯一無二とも言える強烈な独自の 世界を持ち、観る者を簡単に異次元へと叩き出す。映画『ホーリーマウンテン』の異様さ、尋常の無さは只事ではない。ここで描かれるのは神秘主義であり占星術であり錬金術である。ここにはありとあらゆるオカルティズムが横溢するのだ。同時にこの映画は十分に滑稽であり残酷であり美しくもまた醜悪だ。神話のようでいて漫画のようですらある。これらが混沌と混ざり合いながら奔出する映像とその物語はどこまでもサイケデリックでありドラッギーだ。こうしてどこまでも異様な世界に遊びながら最後にポトン、と現実に戻ってくる。それがまた素晴らしい。

6.エル・トポ (1969年、監督:アレハンドロ・ホドロフスキー

エル・トポ HDリマスター版 [Blu-ray]

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かつて岡本太郎は言った、「芸術ってのは判断を超えて、『何だ、これは!』というものだけが本物なんだ」と。オレが初めてホドロフスキーの映画を観た時に感じたことは、まさにこの、『何だ、これは!』だった。そういった意味でホドロフスキーの映画は"芸術"ではあるが、しかしホドロフスキーのその"芸術"は、ただ美しいだけではなく、醜いもの、汚れたもの、異常なものさえもが所狭しと詰め込まれている。ただしそれは露悪的なのではなく、その衝撃こそが生そのものであり、生の生々しさなのだ、ということを伝えるのだ。この『エル・トポ』も、生々しさと醜悪さの中に崇高さが宿るという異様で美しく魂を切り刻むかのような過激さに溢れた物語だ。ホドロフスキーが好き過ぎて、今回のベストテンには2作も入れちゃったよ!

7.ダークナイト (2008年、監督:クリストファー・ノーラン

 正義狂人バットマンと悪の狂人ジョーカーという狂人同士の戦いは暴力の上に暴力が積み重なり最後に破壊と死しか残さないという虚無的な抗争へと発展する。善悪の彼岸とかいう名目上のテーマはその時破綻し狂人たちが行使し応酬しあう暴力の興奮のみにどこまでも酔い痴れることが出来るというのがこの映画の異様さだ。ただただ暗黒のみが広がる神無き世界の黙示録、それが『ダークナイト』だということができるかもしれない。

8.PK ピーケイ (2014年、監督:ラージクマール・ヒラーニー)

PK ピーケイ [Blu-ray]

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欧米の映画を観るときに気付かされることは、そこにある"神"が”隠されている”ということだ。製作者たちは"神"の事など少しも気にしていないし描くつもりも無くとも、注意深く観ると映画の画面の裏側から欧米人の深層心理の底にある”神”の姿がうっすら透けて見えて来る。しかも、実はこの"隠された神"の姿こそが、物語の主軸であったり真相であったりする。結局欧米人は合理性を気取りながら"神"の掌から逃れられていないことを認識していないのだが、その点、インド映画は真正面から臆面もなく【神!!】とやっているばかりか、欧米的な【原罪】と全くの無関係である、という点で、奇妙に明るく【神!!】の話を描くことができる。あとは凝り固まった因習からどれだけ逃れることが出来るかなんだが、映画『PK』をそれを軽やかに遣り遂げているという点で、現在地球上で観ることのできる【神と宗教】についての映画の最高峰なのではないかと思う。

9.イングロリアス・バスターズ (2009年、監督:クエンティン・タランティーノ

いや実はタランティーノの映画はどれも好きで、だからどれを入れてもよかった、そして入れるべきだった、前回のベストテンでは『パルプ・フィクション』を入れた、ああ、あれは最高の映画だった、そして今回は『キル・ビル Vol.1』にしようかと思った、そう、あれも最高の映画だった、けれど、今のタラ映画と比べると少し古臭く感じた、じゃあどの辺かな?と考えた時にこの『イングロリアス・バスターズ』が今の所いい具合に熟成されてきていると思った、なによりフランス女優メラニー・ロランがいい、もちろんクリストフ・ヴァルツもいい、いやイーライ・ロス だって大概なもんだった、そんなことをあれこれ考えるのが楽しかったのでこの作品にした。

10.ラガーン (2001年、監督:アシュトーシュ・ゴーワリケール)

ラガーン [DVD]

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 今回のベストテンにはこの作品を含めインド映画が3本入っている。結局「オールタイムと言っていいぐらい強烈に印象に残っている映画」というと、やはりインド映画が多くなってしまうのは致し方ない。ただし今回のベストテンでは、あくまで「一般劇場ないし日本語字幕・吹替のあるソフトの形で日本で公開されたことのある映画」という縛りにしてあるので、この3作がオレにとってインド映画最高の3作という訳ではない。とはいえこの『ラガーン』、搾取と差別と植民地支配というある種重いテーマを「じゃあスポーツで解決しよ!」と単純化し、そしてその試合内容の手に汗握りついでにオシッコも洩らしちゃいそうになるような凄まじい展開で血管もブチ切れよとばかりにとことん盛り上げまくる一級の娯楽作に仕上がっており、いやこれもインド映画というよりオレがこれまで観たスポーツ映画の最高峰なんではないのかとすら思っている。観なよ。凄いから。世界にはこんな驚くべきスポーツ映画があるんだから。

嫁いだ先にはトイレが無い!?~映画『Toilet: Ek Prem Katha』

■Toilet: Ek Prem Katha (監督:シュリー・ナーラーヤン・シン 2017年インド映画)

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嫁いだ家にはトイレが無かった!?

大恋愛の末結婚したけれど、嫁いだ先の旦那の家にはトイレが無かったッ!?というか村全体にトイレが無い!?という驚愕の事実が大騒動を生む実にインドらしいインドのコメディ映画『Toilet – Ek Prem Katha』です。主演はインド映画売れっ子大スターアクシャイ・クマール、そして"おデブ嫁のてんやわんや"を描いた快作『ヨイショ!君と走る日(原題:Dum Laga Ke Haisha)』に主演したブーミ・ペードネーカル。ちなみにタイトルの意味は『トイレ ある愛の物語』なんだそうで、ここから既に面白そうな作品です。

物語はなにしろ男女の大恋愛から始まります。田舎町で自転車屋を営む ケーシャヴ(アクシャイ・クマール)は都会の娘ジャヤー(ブーミ・ペードネーカル)を見て一目惚れ、すったもんだの挙句相思相愛に相成り結婚へと漕ぎ着けます。しかしジャヤーが旦那の家に嫁いでみると、なんとトイレが無い!?それだけではなく村全体にトイレが無い!?なんとその村は、草むらに入って用を足すのが当たり前になってる村だったのです!「ぜってーありえねーッ!!こんな旦那別れちゃるーーッ!!」ブチ切れたジャヤーを引き留めるためケーシャブは家にトイレを作ろうとしますが、なんとそこにはとんでもない難関が待ち構えていたのです!!

なんでトイレが作れないんだ!?

いやもうインドでなけりゃ考えられないようなとんでもなく可笑しなシチュエーションから始まる秀逸なコメディでした。とはいえ「インドでなけりゃ」とは書きましたけれど、世界ではいまだ3人に1人がトイレの無い生活をしているのだそうで、決してインドだけの問題ではないのは確か。

ユニセフ「世界トイレの日」プロジェクト | UNICEF World Toilet Project

 しかしこの物語は「トイレがあって然るべき都会」で暮らしていたインド人女性が「トイレが無いのが当たり前の田舎」に「結婚」という形で縛り付けられなければならない、という部分で悲喜劇を生み出してるんですね。

「じゃあトイレ作っちゃえばいいだけの話じゃん!」と普通思うでしょう。しかし「トイレが無いのが当たり前の田舎」にはそれなりの理由があったんです。それは、貧乏でトイレを作るお金も無いとかそういう理由ですらなかったんです。なんとその村では、「トイレは不浄をもたらすものだから家に作ってはいけない」という宗教上の理由があったのです!インドには貧困によってトイレが無い家もあるのでしょうが、「宗教上の理由」によるものもあると知ってびっくりしました。

そして、「宗教上の理由」であるからこそそれは当地のコミュニティにおいては絶対の決まりであり、いくら新妻のためとはいえ、ケーシャヴは簡単にトイレなんか作れないんです。おまけにケーシャヴの父親は僧侶であり、「宗教上の理由」を破ることは同時に自分の父親を否定し反抗することに他ならなかったんです。物語の中盤までは新妻ジャヤーも我慢に我慢を重ね、いろんな方法でしのいでいましたが(この辺も気の毒ではあるけどまたまたコミカル)、遂にブチ切れ実家に帰り、あまつさえ旦那に離婚請求までしてしまいます!絶体絶命のケーシャヴ!ケーシャヴの明日はどっちだ!?

非常に優れたコメディ作品

この作品の優れている部分は幾つもあります。まずインドの今日的な問題を扱っている点。実際インド政府もトイレ普及問題には頭を悩ませているそうで、ある意味この作品、「国策映画」でもあるんです。もうひとつは、ロマンス映画の終点である「幸せな結婚」の、その先にある現実的で困難な問題を描いている点。そう、結婚だけで人生はメデタシメデタシなんかじゃないんです。そういった目の付け所がいい。さらにもうひとつは、抑圧的で支配的なインドの父親像に、主人公が反旗を翻す場面を描いている点。インドの悪しき伝統に物申さなければならない時、インドの悪しき父親像にも物申さないとどうしたって収まらないんです。こう言った点が新しい、と感じました。

それとこの物語は女性の人権の物語でもあります。外で用を足す村の女性たちは男たちの心無い悪戯にも遭っていたんですよ。でもそれは仕方ないことだと諦められていた。けれど、ジャヤーが「トイレが無いのはおかしい!」と声をあげた時、村の女性たちもやっとこんな境遇が間違っていると言うことが出来るようになったんです。そしてジャヤーはある行動を起こすんですね。こんなジャヤーを演じるブーミ・ペードネーカルがとてもいい。インド映画にありがちなモデル顔の美人女優ではなく、物語のリアリズムを感じさせる庶民的で地に足の着いたルックスをしている。だってトイレ問題がテーマの映画のヒロインがカトリーナ・カイフやソーナクシーじゃリアリティが無くなっちゃうと思いません?

さらにベタ褒めしましょう。それは主人公ケーシャヴ。彼は、「トイレが無い」という妻の直面した難問を、真摯に聞き入れなんとかしようとするんです。「オラの村の決まりだから言うこと聞け!」なんてやらないんです。トイレ設置に対する父親の猛反対があった後にも、様々な苦肉の策をヒリ出して、なんとか妻の意に沿おうとするんです。にもかかわらずやっぱりうまく行かなくて妻は家を出てしまいます。しかし!ケーシャヴはそれでも諦めないんです!ここからのケーシャヴの大奔走の姿には目を見張ります。例え結果がどうあろうとも、己のできることを、できるだけやる。悩み打ちひしがれながら行動することを止めないケーシャヴに、ああ、これこそがインドの聖典バガヴァッド・ギーター的な姿なんだな、としみじみ思わされましたよ。


Toilet Ek Prem Katha Official Trailer | Akshay Kumar | Bhumi Pednekar | 11 Aug 2017 

バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)

バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)

 

 

最近聴いたエレクトロニック・ミュージック

■New Energy / Four Tet

New Energy

エレクトロニカ・ファンなら人気実力共に誰もが認めるFour Tetだが、オレも嫌いではないにもかかわらずどうも「Four Tetの音」というものをすぐイメージできないでいる。いやそりゃあ変幻自在だからといえばそれまでだが、というよりも所謂"エレクトロニカ"な音からこの人の音というのはスルッとすり抜けているからなのかなあ、という気がしないでもない。そのデビューがポスト・ロック・バンドであったり、ジャズや第3世界の音に接近したりフォークトロニカの第一人者と目されたり、こうして並べてみても確かにエレクトロニカの中心にいるわけではない人なのだが、中心にいないからこそ見えるエレクトロニカの音をこの人は作り続けているのかなあ、などとなんとなく思いつきで言ってみたりする。

Four Tetのニューアルバム『New Energy』ではアンビエントダウンテンポな曲とミディアムテンポの曲とが半々で、最初に聴いた時はやはりどうもトータルなアルバムイメージがすぐ湧かなかったのだが、聴き続けてみると、ああこれはそれぞれが違うスケッチやリリックのようなもので、DJMix聴いてるみたいに「トータルイメージがー」とか言って聴くべきじゃなかったんだな、と気づかされた。そして1曲1曲に注視しながら聴き、その差異と共通項を見出すことで、Four Tetの全体像がふわっと浮かんでくるのがこのアルバムなのかな、とも思った。こうしてそれぞれの曲の輪郭を把握してみると、いややはり単純に、よく出来たいいアルバムですねこれは。非常に内省的な作品集であり、一つ一つの音をきわめて注意深く扱うことによってとても繊細な構造の音として完成している。それは効果的に使用されたアコースティック音に顕著だろう。抑制されつつもやはりエモーショナルなのだ。そしてこの人の音は、なんだか優しいな、という気がする。  《試聴》

New Energy

New Energy

 

■World Of The Waking State / Steffi

World Of The Waking State

World Of The Waking State

 

以前紹介したSteffiの『Fabric94』が実に素晴らしかったため、Ostgut Tonからリリースされた彼女のこの新譜も大変楽しみにしていた。するとこのアルバムもまた『Fabric94』で感じたようにアゲすぎずサゲすぎない常に一定の中域を淡々とキープし続けながら展開してゆくテクノ・アルバムであり、それは酩酊でも興奮でもなく明快な覚醒のみを聴くものに与えるのだ。これがSteffiの生み出す音の特徴なのだろう。なおCDはミニサイズの美しいポスターが付録になっており、気に入ったのでフレームに入れて部屋に飾ってしまった。  《試聴》 

■Feel The Same / Radio Slave

Feel the Same

Feel the Same

 

UKテクノ/ハウスの重鎮プロデューサーRadio Slave(aka Matt Edwards)。これまでも数々の活躍を見せていたがなんとこのアルバムはRadio Slaveとしては初のものだという。様々なジャンルをまたぎ選りに選った音を紡いだこのアルバムはタイトながら重厚、聴くほどに味の出る良盤だ。さすがに長年のキャリアをうかがわせる優れた1作。お勧め。 《試聴》

■Electro-Soma I + II Anthology / B12

Electro-Soma I + II Anthology [輸入盤 / 2CD] (WARPCD9R)_482

Electro-Soma I + II Anthology [輸入盤 / 2CD] (WARPCD9R)_482

 

テクノ・デュオ、B12が1993年にリリースしたデビュー・アルバム『Electro-Soma』のリマスターと2017年リリースのレア・トラック集『Electro-Soma II』をカップリングしたお得版アルバム。インテリジェント・テクノの中心的存在とも言えるB12の音は、端正な美しさと未来的な輝きを湛えた非常に優れたセンスを持ち合わせ、特に『Electro-Soma』パートは今聴いても全く古さを感じさせない素晴らしい完成度で、もはや時代を超越したマスト盤ということができるかもしれない。 《試聴》

■Running Back Mastermix / Tony Humphries/VARIOUS

RUNNING BACK MASTERMIX

RUNNING BACK MASTERMIX

 

ドイツのハウス・レーベルRunning Backがレーベル創立15周年を記念し、NYのハウス・プロデューサーTony Humphriesを迎えてリリースしたMixアルバム。ドイツ産ハウスとはいえDJの手腕のせいか非常にファンキーかつソウルフルな匂いがする。良盤。 《試聴》

■Fabriclive 94: Midland / Midland

Fabriclive 94: Midland

Fabriclive 94: Midland

 

Fabricliveの94番はロンドン出身のDJ、Midland。眩惑的なループ音から始まるこのMixはクールにミステリアスに進行しつつミニマルなフロア・チューンへ、そしてアンビエントへと紡がれてゆく。あたかもひとつの物語のような起伏を感じさせる良質Mix。お勧め。 《試聴》

■Zenith / Sam Paganini

Zenith

Zenith

 

イタリアのベテラン・プロデューサーSam Paganiniの3rdアルバム。重低音響き渡るフロア仕様のミニマル・テクノ・トラック。 《試聴》

■Ariadna / Kedr Livanskiy

Ariadna

Ariadna

 

モスクワ出身の女性プロデューサー、Kedr Livanskiyの1stアルバム。ロシアの大地を思わすようなひんやりしたシンセとほんのり温かみのあるロシア語女性ヴォーカルが独特の雰囲気を生んでいる。  《試聴》

■Lone DJ Kicks / Lone

DJ-KICKS (IMPORT)

DJ-KICKS (IMPORT)

 

人気DJMixシリーズDJ-Kicksの最新作はUKのプロデューサーLone。ヒップホップ/ブレイクビーツを中心にハウスやアンビエントを展開し、次第にテクノ色を強めつつラストはレディオヘッドで締める!という個性的なMix。 《試聴》

双子のシク教徒兄弟が巻き起こす結婚大騒動!?~映画『Mubarakan』

■Mubarakan (監督:アニース・バーズミー 2017年インド映画)

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シク教徒と言えばターバン巻いたあのヤツラである。ハリウッド映画にオモシロ黒人枠があるように、このシク教徒、ボリウッド映画界ではオモシロインド人扱いされているように感じる。 ホントかどうかは別として、映画に出て来るシク教徒といえば単細胞で血の気が荒く、お祭り好きで同胞愛の強い、ヤンチャな連中として登場する。インドの北西部パンジャーブが舞台だとたいていヤツラが現れて(まあシクの拠点だからなんだが)、だいたいなんだか困った大騒動を引き起こす。なんかこー日本で言う「輩」みたいな人たちなんである。いやもちろんフィクションだと思って観てるけどね!

という訳で今日ご紹介するのはシクの皆さんが勢揃いのコメディ映画『Mubarakan』である。主人公は幼い頃両親を亡くした双子の兄弟。二人はそれぞれ親戚の許に預けられすくすくと成長していた。一人はロンドンに住むチャラい青年カラン(アルジュン・カプール)。もう一人はパンジャーブに住む生真面目な青年チャラン(アルジュン・カプール二役)。ある日チャランはカランから見合い話を押し付けられロンドンに赴くが、ふとした行き違いから一族を二分する大騒動が巻き起こってしまう。さてさて一族の運命は!?というもの。

粗筋は大幅に端折って書いたが、さらにチャランと見合い相手ビンクル(アティヤー・シェーッティー)とが恋仲になったにもかかわらず、カランの恋人スィーティー(イリヤナ・デクルーズ)との結婚を決められたり、逆にカランがビンクルとの結婚を決められたり、さらにチャランの元カノ・ナフィーサー(ネーハー・シャルマー)が現れて妙な三角関係になったりと、いろいろややこしい。おまけにカラン/チャランそれぞれの育て親である叔父伯母が壮烈な仲違いを起こし一族の分断の危機が巻き起こり、双子の後見人であるカルタール(アニル・カプール)はなんとかそれを収めようと手を尽くすが何をやっても裏目に出るばかり!?というとことん複雑な人間関係が描かれる。

この作品でまず注目なのは双子の兄弟をアルジュン・カプール一人二役で演じていることだろう。アルジュン・カプール、『2 States』(2014)、『Tevar』(2015)、『Ki & Ka』(2016)などの主演作があるが、それぞれに印象の異なるキャラクターを演じており、さらにこの作品では性格の違う兄弟を演じ分けるなど、今まで気付かなかったがなかなかの演技派俳優だということを認識させられた。オレ意外とこの俳優好きかもなあ。もうひとつの注目はアニル・カプールの怪演ぶりだ。彼の演じるカルタールは「なんでも俺に任せろ!」と兄貴風を吹かすわりには、たいてい頓珍漢でなんの役にも立たない提案ばかり思い付き、最終的に彼がアドバイスするとみんなそっぽを向き始める、というグダグダぶりが何しろ可笑しい。

「双子が主人公となりややこしい展開を見せる」というインド映画は思いついただけでも『Sharmeelee』(1971)や『ジーンズ 世界は2人のために』(1998)、あとネタバレになるから書けないあの大ヒット作などがあるが、これらの作品に存在する「同じ顔の双子が入れ替わることで成り立つエピソード」を、今作『Mubarakan』ではあえて禁じ手にしていることが逆に珍しい(全く無いわけではない)。むしろ『Mubarakan』における双子設定は、「同じ顔してるのにこれだけキャラがかけ離れている」という面白さを醸し出そうとしているからと見るべきなのだろう。そしてそれはアルジュン・カプールの快演により成功していると言っていいだろう。そういやチャラい青年カランはシク教徒なのにもかかわらず髪を切り当然ターバンも巻いておらず、ああ、今はこういうのもアリなんだ、とちょっと思わされた。

監督はアニース・バーズミー。『Singh is Kinng』(2008)、『Ready』(2011)、『Welcome Back』(2015)などの作品があり、コメディを得意とする監督であるが、実はオレはちょっと苦手でもあった。シチュエーションの面白さよりも会話の応酬で笑いを取るタイプのコメディ作が多いからだ。これはこういった作風が悪いという事ではなく、英語力の貧弱なオレにとっては細かなニュアンスの含まれた字幕を追いそれを理解するのが結構大変で、楽しむ以前に疲弊してしまうのである。つまり全てオレの問題であり、アニース・バーズミー監督作を貶めるつもりは全くない。そういった中でこの『Mubarakan』は「一人二役の双子兄弟」と「シク教一族の喧々諤々の諍い」という分かり易いフラグが先に立っていたので、これまでのどの作品よりも楽しむことができた。それにしても英語字幕すらまともに読めないくせによくもまあ毎回インド映画レビューをシレッとした顔で公開しているオレである。
Mubarakan | Official Trailer | Anil Kapoor | Arjun Kapoor | Ileana D’Cruz | Athiya Shetty 

DCヒーロー勢揃いの映画『ジャスティス・リーグ』だったがオレはガル・ガドット様ばかりに夢中だった!

ジャスティス・リーグ  (監督:ザック・スナイダー 2017年アメリカ映画)

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DCコミックヒーローたちが地球を危機に陥れる悪モンを倒す為に勢揃いしちゃうよ!という「DCエクステンデッド・ユニバース」の新作、『ジャスティス・リーグ』であります。まあお話の流れとしては『マン・オブ・スティール』→『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』→今作、ってな感じになってます。

お話のほうは「世界を破滅に導く訳アリのアイテム」を手中にするため「時空を超えてやってきた悪モンの皆さん」が大暴れし、「それを阻止せんとヒーローな皆さんが集まって頑張っちゃう」というものです。こんな具合のいわゆるマクガフィンを巡るヒーロー活劇の骨子は『トランスフォーマー』や『アベンジャーズ』あたりで既にお馴染み過ぎていて、取り立てて新味のあるものではありません。

だから大雑把にお話だけ取り出すとアベンジャーズの没原稿をゴミ箱から拾ってきて作ってしまったような感じになっちゃうし、そもそも「仲間を見つけて・集めて・協力を要請して・ジャスティスなリーグを結成する」という物語の流れが最初から分かっちゃってるので、そういった予定調和的なお話をどう面白く演出するかというのがこの作品の一つのポイントとなるのでしょう。

で、このジャスティスなリーグの皆さんですが、それぞれに個人的な苦悩なり孤独なりを抱えて世を儚んでいる側面があり、いってしまえば「引き籠りと世捨て人」ばかりの皆さんであったという部分が面白いんですね。例えばこんな感じ:

アクアマン→アトランティスの王位継承者だが人間とのハーフである苦悩から人間の住む小さな漁村に入り浸っている
ワンダーウーマン→アマゾン族のプリンセスだが愛する人を失い心を閉ざして人間界に住んでいた
フラッシュ→内気、オタク、人付き合いが苦手でコミュ障気味
バットマン→幼少時のトラウマから大金持ちの表の顔とは別の暗い衝動にに塗れた裏の顔を持つ
サイボーグ→機械の身体なんて嫌だあああ

こんな具合にいずれも脛に傷持つ身である皆さんばかりで、こういった自身の世界から一個離れた場所にいたいわばアウトローな側面を持つ者たちが、最終的には世界を救う為に共闘し正義の使者となって立ち上がるところが独特と言えるでしょう。また、物語に横溢する独特の暗さは彼らのこういった来歴にあるのでしょう。

とかなんとか言いつつ、オレなんかはずーっとワンダーウーマンの活躍する姿ばかりを惚れ惚れして観てましたけどね!いやーピンの作品『ワンダーウーマン』も好きだったけど、この『ジャスティス・リーグ』のワンダーウーマンもよかったわあ!というかガル・ガドット様がよかったわあ!あの鎖骨とか脇とか尻とか太腿とか!もう地球の危機とかヒーローの結束とかどうでもよくてひたすらガル・ガドット様に邪な視線で釘付けになっていた頭がエロまみれのオレだったわあ!

もうワンダーウーマンしか見ていなかったので「この映画の主役、ワンダーウーマンじゃん……」と勝手に思っていたぐらいだわ!もうこれ『ワンダーウーマン』の続編でいいということに個人的に決定したわ!?(注:個人的なエロバイアスが掛かっているので本当はそういった物語ではありません)そもそも単細胞で向こうっ気の強い男性ヒーロー連中の顔ぶれを見渡して「いやこれ私がまとめてあげなきゃダメじゃん……」とばかりに終始笑顔を絶やさず出しゃばるそぶりも見せず男性ヒーローを裏からやんわり操縦していたワンダーウーマンだったなあ!

とはいえ他のヒーローの皆様もそれぞれに個性的で楽しかった。ざっくりまとめると:

アクアマン→とにかく荒々しくて男臭くて近寄ると多分魚臭そうでウイスキーをラッパ飲みする姿に惚れ惚れした
フラッシュ→彼のコミカルさがいい具合に物語をとっつき易くしていた
バットマン→今回一歩引いた感じで存在感を薄めていたので他の新参ヒーローがよく目立ってくれていた
サイボーグ→他のヒーローみたいに"素"の顔が描かれないので次回サイボーグになる前の顔が見てみたいと思った

あと"例の人"についてはみんな薄々勘付いていると思うけど一応ネタバレ防止の為ここでは書かないことにしときます。以上です。


映画『ジャスティス・リーグ』予告【HD】2017年11月23日(祝・木)公開